【本の感想】吉田修一『パレード』

吉田修一『パレード』

2002年 第15回 山本周五郎賞受賞作。

たまにテレビでお目にかかるシェアハウス。

ちらりと見る限りは、昔のビンボーな共同生活とは違い、おしゃれっぽくて存外楽しそうです。自分は、同じ生活空間に赤の他人が存在しているということ自体耐え難いので、興味津々。

吉田修一『パレード』は、2LDKのマンションをシェアする男女の群像劇です。

登場人物は、H大学経済学部 杉本良介(21)、無職 大垣内琴美(23)、イラストレータ兼雑貨屋店長 相馬未来(24)、「夜のお仕事」に勤務 小窪サトル(18)、映画配給会社勤務 伊原直輝(28)。彼らが、各章の語り手になって、ストーリーが展開します。

冒頭の、先輩の彼女に恋してしまった杉本良介の話は、ゆるゆるの青春小説の趣です。

酒を酌み交わしたり、ドライブしたり、ちょっとした悩み事を相談したり。概ねその人のことを理解しているけれど、内面には決して踏み込んでいかない、至極あっさりした関係。シェアハウスを舞台として、上辺だけの心地良い付き合いを満喫する、男女の姿が描かれています。

涙あり笑いありで、最後はホットなドラマを予想してしまいましたが、これはすっかり裏切られることになります。

リビングでの集いが、チャットルームに例えられている通り、彼らは、それぞれが皆に期待される人物として振舞っています。読み進めるうちに、そのギャップと心に抱える闇が、明らかになっていくのです。同居人に適応するための形作られたペルソナ。本当の自分が、熾火のように燻り続けます。

男娼のサトルの登場が引き金となって、彼らの仮面に綻びを見せ始めるわけですが、ゆるゆるな出だしとの落差が大きいだけに衝撃的です。クライマックスの沸騰する悪意を決定づけるシーンより、それでもなお、チャットルームの匿名性に戻ろうとする彼らの意思に、寒々としたものを感じます。津村記久子『十二月の窓辺』『ポトスライムの舟』に収録)を、ちょいと思い出しました。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品が原作の、2010年 公開 藤原竜也、香里奈 出演 映画『パレード』はこちら。

2010年 公開 藤原竜也、香里奈 出演 映画『パレード』
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