【本の感想】吉田修一『パーク・ライフ』

吉田修一『パーク・ライフ』

2002年 第127回 芥川賞受賞作

公園にぽつねんと座っては、目をすがめて景色を眺める”ぼく”。ある日”ぼく”は、地下鉄で間違って話かけてしまった女性が、同じ公園で過ごしていることを知ります。スターバックスコーヒー片手のその人、スタバ女は、”ぼく”の公園での行動が妙に気になっていたらしい。見飽きないのだと言います。他愛もない会話を交わす”ぼく”とスタバ女。

”ぼく”は、別居中の宇田川夫妻の家で留守を預かっています。リスザルのラガーフェルドの面倒をみているのです。休日は、ラガーフェルドを連れて公園へ・・・

”ぼく”の日常は、全く何も起こりません。同僚や、ご近所さんとの触れ合いの日々です。心の闇とか、懊悩とかに慣れきってしまうと、何もないことがやけに新鮮に思えてしまいます。純文学が表しようのないものを文章にする文学ならば、何もないことをしたためている本作品も純文学なのでしょう。何もないのにつまらなくはないのが素晴らしい。

”ぼく”とスタバ女は、恋の予感を感じさせません。かと言って、焦れったくもありません。実にそれが新鮮なのです。

公園に集う人々は、そこでちょっぴり自分だけの楽しさを味わいたいようです。”ぼく”もスタバ女も、そんな人々と一緒に風景にとけ込んでいきます。ハッピーもアンハッピーもない。フツーであることがとても心地良い。吉田修一『パーク・ライフ』はそんな作品です。

文庫に収録の一編『flowers』は、不幸の一歩手前で踏み止まっているギリギリ感に心がざわめいてしまいます。読み物としては、こちらの方が面白くはありますか。

ところで、本書の表紙をよ〜く見ると、覆面をかぶって刃物を持ったかのような人物が描かれています。これっていったい何?

「パークライフ」といえば、ブリットポップの代表格ブラー(Blur)のヒット曲名です。本作品がインスパイアされたと自分が勝手に思っている、1994年発表ブラー『パークライフ』(Parklife)はこちら。

ブラー『パークライフ』

All the people
So many people
They all go hand in hand
Hand in hand through their parklife

“Parklife” song by Blur
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