【本の感想】吉田修一『太陽は動かない』

吉田修一『太陽は動かない』

2019年 ラグビーワールドカップが大盛り上がり。

普段は全くスポーツ観戦をしないのですが、サッカーワールドカップや、ワールドベースボールクラシックのようなイベントになると熱狂してしまいます。自分のようなニワカな人は多いのだろうけれど、根底にあるのは、なんだかんだ言っても「ニッポンダイスキ!」だから。

吉田修一『太陽は動かない』は、機密情報という金鉱を探り当て、高値で売り捌くことを生業とする、トレジャーハンター(かな?)たちの活躍を描いています。エスピオナージ+冒険小説+ハードボイルド+(ちょっぴりだけ)恋愛小説という贅沢な逸品です。

本作品は、各国の利権が渦巻く、次世代のエネルギー革命を背景としています。手にした情報の帰趨によっては、日本は圧倒的なダメージを被ってしまうという設定です。テーマが旬なだけに、実にリアル。リアルであるがゆえに、自分の「ニッポンダイスキ!」にポっと火を着けます。しかし、トレジャーハンターたちは、国益を第一に考えてはいません。これが、どうなっちゃうの感を強めていくわけです。先行きの不透明感と疾走感の相乗効果で、イッキ読みしてしまいます。

本作品が良いのは、テーマだけじゃありません。主人公の鷹野、そして部下の田岡の属する組織であるAN通信は、統制を保つため諜報員に爆弾を埋め込み、毎日正午に連絡がなければ爆発させてしまうのです。この制約から生まれる緊張感が、全編を通して効いています。

キャラクター設定の妙も、イッキ読みに一役買っています。暗い過去のあるストイックな鷹野、素行不良の田岡、韓流スターばりの諜報員デイビッド・キム、ウィグル反政府過激派組織の女首領 シャマル、民主党の一回生議員 五十嵐と秘書 丹田のデコボココンビ。そして、謎の美女AYAKO・・・。トンガリまくる登場人物たちが、ホーチミン、上海、天津、香港、そして、空へ海へと駆け巡ります。敵かな?味方かな?という、彼らのライバル関係も目が離せません。ピンチになると、あ~、やっぱりここで助けにくるんだね、と分かっていながらホロリ・・・。そう言えば、モンキー・パンチが雑誌に連載していた頃の『ルパン三世』ってこんなだったよなぁ。AYAKOは、ふじこちゃん そのまんまだし。

本作品だけでは、AN通信や登場人物たちの謎は解決しきれていません。このテンションを保っての2作目以降はハードルが高いのですが、ハテ?どうでしょう。シリーズは、『森は知っている』『ウォーターゲーム』と続きます。

さて、自分にとって、一番の謎は、タイトルの『太陽は動かない』です。これは、田岡が鷹野に言う、

 ・・・鷹野さん、あんた、何のために生きてるんすか?死にたくないから生きてるんすか?ただそれだけなんすか!

の通り、鷹野や、デイビッド、AYAKOら、それぞれの信念を表象しているように思えます。

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