【本の感想】ダン・ライオンズ『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』

ダン・ライオンズ『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』

仕事でスタートアップ企業の方と絡むことがあります。キラキラワードを散りばめた言説と、圧倒するような前のめり感は、まぁ良いとして、興味がなくなるとスマホを弄るといった姿を見ると、おじさんの若い頃は~、と一席ぶちたくなるのでした。

ダン・ライオンズ(Dan Lyons)『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』(Disrupted: My Misadventure in the Start-Up Bubble)(2016年)は、52歳のおじさんのスタートアップ企業での奮闘記です。

『ニューズウィーク』をリストラされた著者は、ここはひと花咲かそうとスタートアップIT企業「ハブスポット」に、鳴り物入り(?)で入社します。これまでのキャリアや人脈をいかして活躍し、ストックオプションで大儲け・・・となるはずでしたが、著者の目論見は、早々にもろくも崩れるのです。当てがわれた半端仕事、そして著者の半分の年齢の上司・・・。これまで築き上げた実績は何の役にもたちません。おまけに嫌がらせも受けるようになって(これはハラスメントですね)・・・

本書を読むと、エルダー社員の恨み節が身につまされます。ビジネス書というよりギョーカイ暴露本に近いでしょうか。スタートアップの錬金術のカラクリと、一部に富の偏在する実態が良く分かります。著者が、激烈な批判を繰り広げるものの、ここは一発という思惑があって未練を残すなど、スタートアップな人々をそこまで一方的に責められないでしょう。

カルト的な熱狂を社員を鼓舞するなど、スタートアップ企業の内情は日本もさも似たり。ハブスポットの熱狂ワード「オーサム」って、日本のスタートアップが口にする「ワクワクしますね!」と同義でしょうか。

これは、為になる!という一文は見られないのですが、愉快な毒々を含んだもの言いが目を惹きます。以下に、引用しておきましょう。

初期の頃から会社にいる二流社員が昇進し、部署を統括するようになると、バカが社員を採用しなくちゃいけなくなる。バカはもちろん、バカを採りたがる。

企業が劣化するとは、まさにこのこと。

無能な人間は自分の力不足を認識できず、自らの能力を大きく買いかぶり。本当に有能なほかの人たちの才能を理解できない。

共感することしきり!

大事なのはビジネスモデルさ。市場は、一気に大きくなる企業にお金を払う。大事なのは、速く大きくなること。もうけるな、ひたすら大きくなれ、とね。

こんな世の中が続くと思うとウンザリしますね。

投資家にとって創業者はタレントで、金もうけの手段なのだ。

タレント性が必要なわけですね。

ハブスポットは利益を出してはいないが、その必要はない。ハリガンとシャアがしなくちゃいけないことは、売上を伸ばし続け、うまい話を口にし続け、「ディライション 」「破壊」「変革」といった言葉を使い続け、ビジネスを持ちこたえさせることだけ。投資家が見返りを手にする、その日まで。

破壊的イノベーションを!って簡単に言う経営者は、スタートアップだけじゃないですけどね。

「オンラインサービス利用者は、顧客にあらず」という格言がある。私たちは商品なのだ。シリコンバレーの企業から見れば、私たちは十把一絡げにして、広告主に売るためだけに存在している。

読み進めていくうちに、プライドの高い著者の恨み節にやや辟易・・・。本書では、ベン・ホロウィッツ『HARDTHINGS』を参照のこと)など、著名人が多数弄られていますね。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

スタートアップを無暗に信じるなは教訓です。ただ、反面、ハッタリと知ったかぶりの重要性は再認識しました。

本書の終わりは、著者の周辺に渦巻く陰謀論が語られます。この件がなければ、愉快なおじさんの苦労話で、本を閉じたのだけどなぁ・・・

おっと、これが、2021年、初めての投稿となりました。随分、時間が空いてしまったよ。