【本の感想】長嶋有『佐渡の三人』

長嶋有『佐渡の三人』

自分は、よく世間一般のことについて無知だと言われます。それは、自身でも認めることで、何事も知っている人の真似をしていれば間違いは無いという、根っからの怠惰な性格が原因なのです。特に冠婚葬祭は苦手で、当事者になると軽いパニックに陥ります。今年は、父親の7回忌。色々やらかして、また、妹にお小言を貰ってしまいました・・・

長島有『佐渡の三人』は、死にまつわるお話4作品を収めた連作短編集です。

亡くなった親族の納骨に向かう、ある家族の”ゆるゆる”とした日々が描かれています。この”ゆるゆる”感は、著者ならでは。さしてドラマチックな出来事は起こりませんが、それが良いのです。

■佐渡の三人
寝たきりの祖父母の代わりに、隣家に住む親戚のおばちゃんの骨を、佐渡の墓まで納骨に行く物書きの道子、弟、二人の父ヤツオの道中が描かれています。

ユニクロの袋に骨壺を入れたりと、納骨に関する儀礼に関して無知極まりない三人の、あーでもない、こーでもないのズレた会話が愉しい作品です。高校からの筋金入りの引きこもりの弟と、弟が先生と呼ぶ道子とのボケたやり取りに、ヤツオが絶妙に絡みます。とは言え、自分も納骨料いくら?、どうやって渡すん?なんてこをは知らないのですが・・・。本作品の三人のように、終わったらほっと一息で、観光ぽっくなるのには共感してしまいました。

■戒名
「佐渡の三人」から二年後。生前から自身の戒名を決めていた寝たきりの祖母みつこと、これまた寝たきりの祖父長節の介護の日々が描かれています。

祖父母の家に同居している弟は、二人の介護に専心しています。祖父母に気をかけながらこの家への訪問に気詰まりを感じている道子。この微妙な雰囲気は、自分も親の介護で妹に感じたのと同質のもの。激しく共感してしまいました。

大学病院の院長を勤め上げた祖父には、長年来の愛人がいて、今や介護センターで働く彼女に祖母も含めて介護されています。愛人に対して「あの人、頭おかしいんですよ」と見解を述べる弟。”ゆるゆる”なシチュエーションが良いですね。

■スリーナインで大往生
九十九歳九ヵ月(スリーナイン)で亡くなった祖父の納骨のため、道子と叔父のヨツオ(ヤツオの兄)が、佐渡へ向います。祖父の息子たち長男の言語学教授ヨツオ、次男の医学部教授ムツオ、三男の古道具屋(実業家!)ヤツオが集う通夜の夜、そして、ヨツオとの道中が描かれています。

今回の道子は、儀礼には慣れたものです。祖母に見せるため、携帯電話の動画撮影までこなします。ただし、デリケートで優しいヨツオとの旅は、「佐渡の三人」のように「ウケる」ことで悲しい時間をなくすことができません。

■旅人
祖父の後を追うように亡くなった祖母の分骨と、親戚の「隣のおじちゃん」の納骨という「ダブル納骨」のため、佐渡へ向かう大所帯の旅が描かれています。

本作品は、4編の締めくくりとして、道子は、「人が死ぬということ」の意味を見出します。死ぬことは、身体的なことや観念的なことだけではないと、道子は言います。自分もこの歳になると、父親や親戚筋といった身近な者を亡くすようになりました。本作品は、普通の人々の生きていたことの証とは何なのか?を考えさせてくれます。ラストの”ゆるゆる”感は、ちょっと寂しげ・・・

そういえば、自分の「知っている人に全部お任せ」は、麻雀の点数計算もです。三十年以上やっていて、未だに憶えられないのだよなぁ・・・

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