【本の感想】長嶋有『泣かない女はいない』

No, woman, no cry
No, woman, no cry
Ere, little darlin, don’t shed no tears
No, woman, no cry

“No, woman, no cry” song by Bob Marley And The Wailers
長嶋有『泣かない女はいない』

長嶋有『泣かない女はいない』の主人公 睦美は、暫く泣いたことがありません。さしたる志もなく、大手企業の下請け会社 大下物流に事務職員として勤め始めた睦美。年下の同僚や、派遣のおばちゃんたちと、なんとなく距離を置いてしまいます。睦美にはそんな気がなくても、ついつい突っけんどんな物言いになってしまうのです。

人好きのする社長と、ゆるゆるとした仲間たちに囲まれる事務職ライフ。いつしか睦美は、皆からしっかりものと見られるようになります。

屋上に登って野球をしている工員を眺めたり、フォークリフトに乗せてもらったりするうちに、睦美はこの会社が好きになっていくのでした。そして、頼りになる先輩社員 樋川さんに惹かれていることにも気付いてしまいます。

実は、睦美は、恋人 四郎と同棲しているのです。さてさて、睦美の新たな恋はどうなるでしょう。そして、業績悪化で親会社に吸収合併されてしまう大下物流の行く末は。

タイトルの『泣かない女はいない』は、会社の皆でカラオケへ行った時、樋川が歌ったボブ・マーリーの曲「No Woman No Cry」からきています。本当は、「ねぇ君泣くんじゃないよ」ぐらいの意味なのですが、睦美に意味を聞かれて、樋川が答えたのが「泣かない女はいない」です。

睦美は、はたと自分が暫く泣いたことがないことに気付きます。いつ涙を流したかすら忘れています。

あぁ、恋しちゃうんだろうな という瞬間です。

恋に落ち始めた睦美と、樋川の何気ない触れ合いが心地良いですね。二人が肩を並べて歩きながら、キン肉マン談義に花を咲かせるシーンは必読です。

睦美の性格は、桶川に恋していることを四郎に打ち明けざるを得ません。この時の四郎の切ない気持ちは、男の自分として分かるのです。あぁ、しかし、一番言っちゃいけない言葉を言っちゃった。

読了すると、本作品のバックグランドミュージックが「No Woman No Cry」であることがわかります。

同時収録の『センスなし』は、決定的な夫婦の危機を迎えた みどりの一日です。

愛人の元に奔った夫の延滞アダルトビデオを返しに行きながら、高校の頃の友人 保子との思い出を振り返っていきます。長嶋有作品は、どこにでもある日常のさざ波を、殊更深刻になるわけでもなく描いています。可笑しさの中にちょっとした寂しさや涙が見え隠れするのです。

さて、「泣かない女はいない」とのことですが、男の自分はどうでしょうか。え~と、子供が小さい頃の手紙を読んでは泣いているし、映画『アイ・アム・サム』は、いつ見てもは必ず3回は泣くかなぁ。

ボブ・マーリー『ノー・ウーマン・ノー・クライ』

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