名無しのオプ=探偵シリーズ第二弾。パルプマガジンをこよなく愛す、肺癌ノイローゼ気味の中年探偵が主役のハードボイルドです。少ない手掛かりをもとに緻密な捜査を重ね、徐々に真相に辿り着いていく様は、これぞ探…
【本の感想】ビル・プロンジーニ『脅迫』
1982年 シェイマス賞 長編賞受賞作。
1983年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第6位。
ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini)『脅迫』(Hoodwink)(1981年)は、作中に主人公の名前が表れないハードボイルド、名無しの探偵シリーズの第7弾です。
出版社が新潮社、徳間書店、講談社と変遷していくうちに翻訳がなされなくなってしまったという残念なシリーズですが、第17弾『報復』までは未訳のものがなく続いています。
往年のパルプ・マガジン作家たちへの脅迫を調査するため、ファン大会に招待された探偵。会場となったホテルの一室で、編集者のコロドニーの射殺死体を発見します。密室状態の中で、拳銃を携え呆然としていたのは、知り合いの作家ラッセル・ダンサーでした。探偵は、ダンサーの依頼で無実を晴らすため調査を開始します・・・
名無しの探偵自身が、密室殺人の証人であって、絶対的不利な状況であることが本作品のポイントです。調査の過程で第2の密室殺人が発生するという、これまでの直球のハードボイルドとは違った趣となっています。密室トリックとしてはイマイチだし、犯人もインパクトが少ないのですが、地味な探偵小説に多様性を与える意味はあったと言えるでしょう。6,000冊のパルプ・マガジンを集めるのが趣味という、さえない53歳 探偵の不器用な大人の恋愛も良いですね(いつの間にかコレクションが1,000冊増えている!)。
本作品では、事務所を移転し、将来の伴侶となるケリーと出逢うなど、探偵の身の周りに変化が表れます。僚友エバハートの家庭事情の悪化ってのもあります。過去の事件に度々、言及されるので、順番に読み通していると一層、楽しいのですが、徳間書店版が入手しずらいのが難点ですね。
なお、ラッセル・ダンサーは第3弾『殺意』からの再登場です。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『脅迫』で、書影は原著のものを載せています。
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