【本の感想】ビル・プロンジーニ『失踪』

ビル・プロンジーニ『失踪』(原著)

ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini)『失踪』(The Vanished)(1973年)は 名無しのオプ=探偵シリーズ第二弾。

パルプマガジンをこよなく愛す、肺癌ノイローゼ気味の中年探偵が主役のハードボイルドです。名無しというだけあって、作品中では探偵の名前を知ることはできません。

前作『誘拐』から2ヵ月後。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

探偵は、恋人エリカに去られた傷が癒えぬまま鬱勃とした日々を過していました。そんな探偵のもとを現れた依頼人エレイン・キャヴァノーは、忽然と消えた婚約者ロイ・サンズの行方を捜して欲しいと言います。結婚式を前にしたロイは、勤務先のドイツからサン・フランシスコへの帰途の途中に姿をくらましてしまったらしいのです。手掛かりは、ロイの荷物に残された一枚の似顔絵だけ・・・

少ない手掛かりをもとに緻密な捜査を重ね、徐々に真相に辿り着いていく様は、これぞ探偵小説!です。本作品の探偵は、ドイツへと活動範囲を広げますが、事件そのものはいたって地味です(本シリーズは総じて地味)。地味ではあるものの、愛憎劇が絶妙に織り込まれていて、重い内容になっています。

探偵の内省的な性格を反映してか、どんよりとした曇り空を連想させるのが、このシリーズの初期作品の特徴ですね。シリーズが進むと、お疲れ感は増すのですが、いくぶん明るいおじさんに変貌していきます(そうして愛着を感じるようになるのですよ)。

ロイの行方を追う探偵に新しい恋の予感が生まれます。しかし、事件の顛末は、探偵を思いもよらぬ状況へ導いてしまうのでした。何とも、気になる終わり方ですが、はてさて続きは如何に。

名無しの探偵シリーズは第一弾『誘拐』から順に読み進めた方が良いでしょう。自分はとびとびに読んでいるからか、続きを渇望する楽しみ(苦しみ?)が随分少ないように思います。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『失踪』で、書影は原著のものを載せています。

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