【本の感想】田辺聖子『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』

本の感想 田辺聖子『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』

1964年 第50回 芥川賞受賞作。

貧乏な大学生の頃に行った数少ないライブは、当時のカノジョが好きだったRCサクセション。そして、学祭でチケットを買わされた松本伊代(とキャプテン)です。「センチメンタル・ジャーニー」をカノジョと聞いて微妙な空気になったのは憶えています。

今年(2019年)6月に物故された田辺聖子の代表作が『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)』。このタイトルと学生の頃の淡い(!)思い出から、甘くて切ない恋愛ものを想像しました。恋愛小説が苦手だった頃はスルーしていた作品で、免疫ができてきた今こそと、手に取ったわけです。

しかし、・・・ストーリーは、想像していたものと随分違っていますね。

四流・五流放送ライターの有以子は、(今でいう)恋愛体質。イマカレは線路工員で党員(いわゆる左の方ですね)のケイです。同僚の、これまた四流・五流放送ライターのヒロシは、有以子の感情的な行動に振り回されっぱなし。がちがちの党員ケイの言動に、有以子の心は千々に乱れて・・・。

半世紀も前の作品で、流石に言い回しやシチュエーション(党員って!)は古色蒼然としていますが、男女関係の根っこの部分や、恋愛至上主義の妙齢の女性の心の動きは、些かも変化していないことが分かります。有以子のモトカレ(ジョニー・李って!)への、あ~らお久しぶりな媚ともとれる馴れ馴れしさは、あるあるでしょう。ケイからのこっぴどい仕打ちの末、ヒロシへなびく有以子、でもやっぱり・・・。

本作品は、深刻な話をクールに笑い飛ばす快活さがありますね。センチメンタル・ジャーニィってそういうことか、とこれまた予想外の結末です。ただ、これは果たして純文学なのかなぁ、とは疑問を持ちました。

その他の作品は、昭和感が満載で自分としては懐かしさを覚えますが、今の読者はどうでしょうか。ライバルの幸福な家庭を目の当たりにして心乱される男「大阪無宿」、浮気亭主の言い逃れ「喪服記」、不倫の末の死を詮索する町人らの噂話「鬼たちの声」、器量の悪い息子の嫁に納得できない父「容色」などが収録されています。なるほど、“おせいさん”という著者の愛称がよく似合う作品集です。

Gonna take a Sentimental Journey,
Gonna set my heart at ease.
Gonna make a Sentimental Journey,
to renew old memories.

“Sentimental Journey” song by Doris Day

センチメンタル・ジャーニィといえば、やっぱりドリス・デイ「Sentimental Journey」でしょうか。

それにしても、伊代ちゃん(さん)、まだまだお元気でなにより。