【本の感想】原田マハ『楽園のカンヴァス』

原田マハ『楽園のカンヴァス』

2012年 第25回 山本周五郎賞受賞作。
2012年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第6位。
2013年 このミステリーがすごい! 国内編 第6位。

2020年も本日でおしまいです。思い起こせば2019年3月19日より毎日、本の感想を書き連ねてきたのですが、近頃は、流石に作業感が出てきてしまい、本を読みたいのか、感想を書くために本を読んでいるのか、判然としなくなってきました。2021年は、引っ越しも予定しており、お仕事も忙しくなりそうなので、ペースを落すこととしましょう。色鉛筆画も始めたいしね。

原田マハ『楽園のカンヴァス』は、アンリ・ルソーを取り上げたアート・ミステリです。

アンリ・ルソーについては、ヘタウマ絵ぐらいの認識でしかなかったのですが、本作品を読んで考えを新たにしました。著者のアート系の作品は、刺激的であり勉強にもなるので、恋愛小説や成長小説よりも好みです。

倉敷にある大原美術館の監視員 早川織絵は、企画展示のためにニューヨーク近代美術館(MoMA)からアンリ・ルソーの「夢」を借りるにあたって、チーフ・キューレーター ティム・ブラウンより、交渉人に指名されます。実は、織絵は、二十年ほど前、パリ大学の天才女性学者として名を馳せたオリエ・ハヤカワだったのです。

物語は、2000年の現代から、1983年バーゼル、そして1906年から1910年のパリへと時空を超える展開を見せてくれます。

17年前、織絵とティム・ブラウンは、スイスのコンラート・バイラー邸に招かれ、アンリ・ルソーの「夢」に酷似した絵画の真贋を判定するよう依頼を受けます。真贋判定の勝者が、この絵の取り扱い権利を譲り受けるというのが条件です。期限は、7日間。その間、二人は、一冊の古書を交互に一章づつ読み進め、手掛かりとするよう指示を受けます・・・

ティムは、アシスタントを務めているMoMAのキュレーター トム・ブラウンと偽って対決に臨んでいます。バレればキャリアは水の泡。負けるわけにいかないティムに、織絵もまた負けられない事情があるのでした。

古書は、アンリ・ルソーの日常が叙述されたものです。「夢」のモデルとなった洗濯女ヤドヴィガ、そして若き日のピカソらとの交流が綴られ、物語として良く出来ています。勝負の日まで、内容については、一切意見を交換することのできない織絵とティム。ティムは、織絵の鼻っ柱の強さに最初こそ反感を抱くも、真摯さに触れるに従い、徐々に惹かれるようになっていきます。ここは、お約束通りですね。

「夢」にはピカソの「青の時代」の大作が眠っていると示唆するインタポールの芸術品コーディネーター ジュリエット・ルルー、ティムの正体を知り脅しをかけるバイラ―の代理人弁護士エリク・コンツと、織絵とティムの勝負に様々な人々の思惑が絡み合います。

織絵の負けられない理由を知ったティム。さらに、ティムが勝てば、最終的にコンツの脅しに屈し、権利を渡すことになります。ティムの悩みが深くなり始める中、約束の7日が到来し、織絵とティムの真贋判定が行われます。果して勝負の行方は如何に!

クライマックスは、二転三転するスリリングな展開です。落としどころとしては、文句なしでしょう。さらに、古書の意外な真実、そして、もうひとつの「夢」に隠されたロマンチックな謎が、明らかになります。本作品は、おっ!となる展開で、最後の最後まで楽しませてくれること間違いなしです。

そして、2000年に舞い戻り、緊迫の勝負を繰り広げた織絵とティムが再会します。この時間の行きつ戻りつは、著者の十八番ですね。うむむ、術中にハマり、ここでも淡い感動が!

ついでに、アンリ・ルソー展が、北海道近代美術館で開催されることを祈りましょう。

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