沖縄の小さな島に住む青年が主人公のラブストーリー。 カフー(幸福)を待ちわびてばかりじゃダメなんだ。本作品のタイトルの意味をそのように受け止めました。油断大敵、人前で読んではいけない作品でしたね。
【本の感想】原田マハ『あなたは、誰かの大切な人』
原田ハマ『あなたは、誰かの大切な人』は、三十代後半から五十代までの、シングルの女性が主役の短編集です。
彼女たちは、自身のやりたい事を成し遂げ、キャリアの面では申し分がありません。しかしながら、人生の黄昏時、つまり、老いや死を意識する年代に差し掛かっており、しみじみと孤独を感じているように見受けられます。
一人きりの人生においては、タイトルに示す通り、肉親であれ、友人であれ、同僚であれ、自分が誰かの大切な人であると思えるそのことが、心の拠り所なのです。
■最後の伝言
イケメンで浮気性の父通称サブちゃんに、苦労されっぱなしの母トシ子。73歳でこの世を去った母の葬儀に喪主である父は姿を見せません。二人娘の姉 栄実は、ついに堪忍袋の緒が切れて・・・
生前の母が、葬儀屋へ託した伝言に、ぐっと胸をわし掴みにされてしまいました。父を病床から遠ざけた、母の女としての矜持とは。斎場に流れるお別れの曲が、涙を誘います。
■月夜のアボガド
フリーランスのアートコーディネーター マナミには、年上の素敵な友人がいます。やり手の展示ディレクター アマンダ・コーネル69歳。そして、主婦のエスター・シモンズ79歳。エスターは60歳のとき、出会いから20年の時を経て結婚をしたのでした。
真実の愛とはまさにこのこと。これが日本人だと、あり得ない!が先にたってしまうのですよね。
■無用の人
美術館に勤める羽島聡美の元に、亡き父正三から宅配便が届きます。熟年離婚し、仕事も解雇された寡黙な父。父は、母親と社会から、「無用の人」の烙印を押されてしまったのです。
ぎこちない間柄でしかなかった父と娘。そんな娘に、父が託したものとは何でしょう。娘にしか分からない父の心のうちが、温かな余韻を残します。父と長じた娘の関係は、不器用になりがちです。残念なことに・・・実感・・・
■緑陰のマナ
トルコ紀行文を書くために、イスタンブールを訪れたフリーランスの「物書き」。彼女とNPOのエミリさんとの交流が描かれます。
岐路に立つ女性が、ひとつの助言によって、気づきを与えられるという作品です。本作品は、ありふれた内容で、残念ながら響くものはありませんでした。
■波打ち際のふたり
大学時代の同級生 波口喜美(ハグ)と旅友 長良妙子(ナガラ)の赤穂の旅。「旅をあきらめた友と、その母への手紙」(短編集『さいはての彼女』収録)、そして「寄り道」(短編集『星がひとつほしいとの祈り』収録)のハグとナガラが、妙齢の女子になって登場します。
それぞれの二人の今は、お気楽なだけの旅とは違います。色々なものを失い、その代わりに重いものを背負い込んでいるのです。彼女たちの若き日々を知っているだけに、身につまされますね。
■皿の上の孤独
サキコと年下の青柳くんは、ビジネスパートナーでした。夫がいても常に恋をしていたサキコ。でも、青柳くんは同志。地元に戻った青柳くんと久々に再会したサキコは、青柳くんが失明の危機に瀕していることを知るのでした。
8年前に離婚し、48歳となったサキコ。青柳くんとの微妙な距離感が、一層の寂しさを誘います。サキコの気持ちをあからさまに書き表していない点が、良いですね。なお、本作品には、「月夜のアボガド」のマナミとアマンダが、ちらりと登場します。
本作品集は、読者の年代によって受け止め方が異なるでしょう。主人公たちと同年代の女性読者がどう捉えるか、興味があります。
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