【本の感想】横山秀夫『出口のない海』

本の感想 横山秀夫『出口のない海』

戦争の悲惨さを表現するとき、ドラマや小説、マンガでは、神風特別攻撃隊をテーマにするものが多いように思います。横山秀夫『出口のない海』は、特攻隊に身を投じた青年 並木浩二が主役の青春小説です。

ただし、並木が搭乗するのは戦闘機ではなく、人間魚雷「回天」。「回天」は、一度発射されると標的に当たるか否かは別として、確実な死が約束されてしまうという人間兵器です。

ヒジを壊して野球への夢を断念しかけた並木は、再起を目指す中、さしたる思い入れもないまま特攻隊に志願してしまいます。ちょっとした気持ちのゆれが、並木の命にタイミリミットを設定するのです。今まさに未来に向かって歩き出そうとした青年へ、運命のいたずらともいうべき悲劇が訪れます。

本作品は、戦争青春小説としてはありがちではあるかもしれません。愛と友情、そして死。お約束通り(?)、並木を中心とした登場人物たちの純粋な心情に胸をしめつけられます。

成り行きで特攻隊員となってしまった並木は、何のために命をなげうたねばならないのか逡巡します。そして、やっと出した結論が、定番の戦争青春小説にない輝きを放っているように思います。並木の最期が予想外であったのですが、であるからこそ深い感動を与えるのかもしれません。

本作品は、著者の警察小説のような沸騰感がありません。しかし、後味は、他の作品と通じるような、寂しさに中の清々しさを感じることができるでしょう。

そういえば、昔の少年マンガは戦記物が多かっですね。ちばてつや『紫電改のタカ』は名作でした。死にゆく主人公にヒロイズムをみるという、現代の格闘マンガの本流がここにあったように思います。何かを守るために儚く散っていく命。極限状態の中で育まれていく友情。仲間に希望を託し、青年たちは自らを犠牲にして死地に赴くという、王道スタイルです。と、そんなことを思い出したりしました。

2006年公開 市川海老蔵、伊勢谷友介、上野樹里 出演 映画『出口のない海』

2006年公開 市川海老蔵、伊勢谷友介、上野樹里 出演 映画『出口のない海』はこちら。

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