【本の感想】原田マハ『旅屋おかえり』

原田マハ『旅屋おかえり』

原田マハ『旅屋おかえり』は、元アイドルにして、今や崖っぷちアラサータレント 丘えりか の奮闘記です。

丘えりか(本名、岡林恵理子)、こと おかえり は、 萬鉄壁社長率いる よろずやプロの唯一のタレントです。出演番組は、スポンサーの離脱が甚だしい旅番組『ちょびっ旅』 一本のみ。青息吐息のよろずやプロ、そして、タレント生命が首の皮一枚のおかえり、と斜陽な雰囲気ぷんぷんです。ある日、おかえりは、スポーンサーの名前を間違えるという致命的なミスを犯し、番組が打ち切りになってしまいます。

絶体絶命の危機をどう乗り越える、おかえり!、そして萬鉄壁!という、物語は比較的、ユル~い出だしです。登場人物たちのキャラクター設定は、あるあるなステレオタイプですし・・・ 。ただし、原田マハ作品は、こういうユルさに油断すると、クライマックスで涙腺が崩壊するので要注意。

文字通り一肌脱ぐ(!)しかないと追い詰められる おかえり でしたが、ひょんなことから、旅へ行けない人の代わりに、おかえり が旅をする”旅屋”を始めることになります。

華道の鵜野流家元の娘で、ALSを患った真弓に生きる希望を与え、そして、父と娘のわだかまりを修復せんと、奮闘する おかえり。旅先の角館の人々、そして、おかえりを支えようと協力を惜しまないスタッフたち。故郷礼文島で、旅を夢見ていた少女 おかえり のエピソードが挿入されて、ぐぐっとアツいものがこみ上げます。ここは道半ばなので、涙腺崩壊は我慢のしどころでしょう。

初めての旅屋を成功させた よろずやプロに、徐々に仕事が舞い込みます。そして、『ちょびっ旅』の元番組スポンサー 江戸ソース会長 江田悦子から、 『ちょびっ旅』を復活させるための条件として、会長自身のプライベートな旅の依頼を申し入れられます。それは、生き別れとなった妹の娘 元アイドル天川真理と共に妹の墓へ参りをし、彼女にある品を渡すことでした。最大のチャンスに前向きな おかえり。しかし、萬鉄壁社長や関係者の表情は冴えません。やがて、その理由を知ることになる おかえり でしたが、副社長澄川のんの らスタッフの反対を振り切り、天川真理が住む愛媛県内子町へ旅立つのでした・・・。

スタッフに背を向けられ孤立無援の おかえり。ひとりぼっちの旅で、起死回生は成功するのか!クライマックスに向けて大いに盛り上がる・・・はずだったんですが、バタバタとお話を畳んでしまった印象が強く残りました。おかえり の人に癒しを与えるキャラは、とても良い味なのです(ネーミングもキャッチ―)。しかしながら、入り込めるまでは今一歩。旅屋のコンセプトは魅力的なので、いくつかの旅を連作短編として盛り込んでくれたら、感慨深いものがあったのかもしれません。

ラストは、例えるなら、くしゃみを我慢したら、くしゃみが出なくなってしまったような、もどかしさを感じてしまいました。

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