【本の感想】シャーロット・アームストロング『魔女の館』

本の感想 シャーロット・アームストロング『魔女の館』

サスペンスの女王、はたまた、現代の魔女と評されたシャーロット・アームストロング(Charlotte Armstrong)。善意のミステリ MWA最優秀長篇賞受賞作『毒薬の小壜』を読んで以来、アームストロングの作品をちょくちょく手に取るようになりました。

『魔女の館』(The Witch´s House)(1963年)はいわば監禁サスペンス。

大学講師パット・オシーは、盗みの疑いのある同僚エヴェレット・アダムスを問いただすべく跡を追います。エヴェレットを追い詰めたパットでしたが、エヴェレットの反撃にあい気を失ってしまいます。パットが目覚めると、そこは老婆と凶暴な犬の住む館でした。傷つき身動きができないパット。パットが何を言おうが、まるで老婆は耳をかしません。老婆は、パットをその昔逮捕された息子ジョニーと同一視し、自由を束縛しようとするのでした。 ・・・

監禁ものは、拉致された人がどのようにそこから脱出するか、もしくは助けだされるかが見所です。本作品では、パットの妻アナベルとエヴェレットの娘ヴィーがその鍵を握ることになります。アームストロングの作品は、登場人物の行動が発生させる様々な出来事によってストーリーが盛り上がるのですが、ややもすると強引さだけが目立ってしまうことがあります。本作品は、そういう不自然な印象を受けることなく登場人物たちの行動を見守れるので、純粋にスリリングな作品世界を楽しむことができるでしょう。

夫を案じるものの周囲から理解を得られないアナベル。パットとともに行方がわからなくなった父エヴェレットを案じるヴィー。何やら奸計を企むエヴェレットの若い後妻のセリアとその双子の兄のセシル。ひたすら保身に奔るドリンクウォーター学長。事件性を否定し捜査に身が入らない新米ボウとマクラーレン警部補のコンビ。そして、パットを監禁し、近隣から魔女と恐れられるミセス・ブライド。

ストーリーは、アナベルとヴィーのパット探索行を中心に、徐々に生命と精神が蝕まれていくパットの状況を挿入しながら展開します。登場人物たちの自己主張のぶつかり合いが、事件をさらにややこしくしてしまうのですが、ここはアームストロングらしい盛り上げ方だと思います。

心理描写で読ませる作家ではありませんが、アナベルの向こうっ気の強さともどかしい気持ちのないまぜになった表現は巧みです。亡き母の面影を負い常にレディであろうとするヴィーとの噛み合わなさ加減が面白いですね。

アームストロングの作品は、最後はまあるく収まる傾向にあるようで、本書も同様です。ラストはハラハラドキドキの展開を見せてくれるし満足感は高いと思います。ただ、パットがエヴェレットを追いかけようとしたその事の顛末や、思わせぶりなセリアとセシルの過去が判然としなかったりと、本筋とは関係がうすいところで未消化な部分が見られます。ここはラストのボウとマクラーレン警部補のちょっとしたサプライズに免じて許してあげようかな。

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