【本の感想】エルモア・レナード『スティック』

エルモア・レナード『スティック』(原著)

長らく新刊書店の絶滅危惧種に指定されているエルモア・レナード(Elmore Leonard)。ひとときの栄光はどこえやら ・・・。科学の力を信じて、電子書籍として復活することを祈るしかありますまい。

積読本のレナード山を築いているものの、読了した作品が極端に少ないので、自分には作家レナードについて語る術がありません。特に、レナード・タッチなる作風については、ピンときていなかったりします。

独特のテンポ、リアルな会話、場面展開の妙が、レナード・タッチらしいのですが、原著をあたらなければ訳者に負うところが大きいのじゃないでしょうか。作品はもとより、作家ならびに作風が自分なりに語れるというのが、本読みとしての理想ではあるので、このあたりを念頭に置きながら、今後(今更か)、レナード山を登っていくとしましょう。

本作品『スティック』(Stick)(1983年)は、『スワッグ』(Swag)(1976年)の登場人物の一人 元自動車泥棒のステックが主役です。日本の刊行順が逆転してしまっているため、『スワッグ』読了する前に、うっかりとこちらを読んでしまいました(訳者のあとがきにも書いてないし)。しかしながら、作中ではスティックの過去に言及されはするものの、独立した作品として楽しむことができます(そのはず)。

7年の刑期を終え、ムショ仲間のレイニーに誘われるまま、フロリダへやってきたスティック。現金の受け渡しで5千ドルを稼ぐちょろい仕事のはずだったのですが、いきなりレイニーが殺られ、スティックも命を狙われるようになります。スティックの態度が気に入らない依頼人の実業家チャッキーに嵌められたのです。チャッキーとその仲間たちに追われるステックは、ふとしたきっかけで出逢った投資家のバリーに気に入られ、運転手としてこの街に暮らすことにするのでした。 ・・・

本作品は、ムショ仲間の復讐という安っぽい話にならない点が良いのです。

引かない、媚びない、省みない。タフでクールな40男スティックの、降りかかった火の粉は払います的な生き様が気に入りました。

探し回っている奴らの前にちょくちょく姿を現しては、泰然自若と成り行きを見守るステック。へらず口で相手を翻弄するといった小細工はなし。ストレートなもの言いで、渡り合っていきます。この丁々発止のやり取りは、スカッとさせてくれるでしょう。

レナードの作品は、憎めない悪党どもが生き生きと活躍するのが一つの見所(らしい)です。本作品でも、魅力的な登場人物たちが、映画のシーンが切り変わるような場面展開の中で、ある時は面白可笑しく、ある時は緊張感を孕みながら描かれていきます。

スティックと、バリーの投資カウンセラー カイルとの恋愛や、離婚し離ればなれになった娘との交流も、作品に彩りを添えています。

バリーや、カイルとの触れ合いから、徐々に、これからの人生の目標を定めていくスティック。果して、スティックは、全ての問題を解決し、順風満帆な生活に踏み出していけるでしょうか・・・、と続きます。

フロリダというとカール・ハイアセンの諸作品と同様、本作品でも地上の楽園感は伝わってきます。この楽園で繰り広げられるドタバタ劇が、とっても愉快なのです。もっとも、自分は『CSIマイアミ』の中でのフロリダしか知らないのですが。

なお、本作品は、バート・レイノルズ主演で途轍もなく評判の悪い映画になっているようです。これまたスティックのイメージと正反対なキャスティングじゃないですか。

本作品が原作の、1985年公開 バート・レイノルズ監督・主演 映画『バート・レイノルズのスティック』(なんじゃのこの邦題!)はこちら。

1985年公開 バート・レイノルズ監督・主演 映画『バート・レイノルズのスティック』

(注)読了したのは文春文庫の翻訳版スティックで、書影は原著のものを載せています。