【本の感想】ビル・プロンジーニ『暴発』

ビル・プロンジーニ『暴発』(原著)

ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini)『暴発』(Blowback)(1977年)は、作中に主人公の名前が表れない、名無しのオプ=探偵シリーズの第四弾です。

前作の第三弾『殺意』までは、パルプマガジンをこよなく愛す肺癌ノイローゼ気味の中年探偵に、自分の体たらくを重ね合わせ、そこそこ愉しませてもらいました。ここで息切れしてはいけないシリーズ第4弾の本作品は、というと・・・(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

探偵は、戦友ハリーからの頼みを聞き、ハリーが経営するキャンプ場へ向かいました。そこではレイ・ジェラルドの妖艶な妻 アンジェラを巡って、宿泊客らが悲喜こもごもの駆け引きをおこなっています。トラブルを未然に防ぎたいハリーは、そのために探偵を呼んだのです。

宿泊客らの関係性を探り始める探偵。

程なくして、探偵の目の前で、ヴァンが断崖から転落するという事件が発生します。ヴァンの運転席の男は、事故の前に殺害されていました。しかし、この男は宿泊客ではありません・・・

肺癌ノイローゼの探偵が、ついに喀痰検査をし、その結果から逃げるように友の誘いに乗ったところから物語は始まります。本作品の探偵は、精神面でかなりのヘナチョコなのです。人間味溢れるということになるのでしょうが、ここはかなりうざったいですね。息も絶え絶えに頑張る中年探偵の活躍が魅力の本シリーズにあって、実に残念。ハードボイルドは、どこへやら。

遠くサンフランシスコから離れた保養地で、男女のドロドロの愛憎劇が展開されるのですが、これまた読んでいてゲンナリしてしいます。男の嫉妬は決して楽しいものじゃないのですよ。

予想通り痴情の果ての如き死人が出てしまいますが、断崖からヴァンと共に転落した男とのリンクが上手くいっていない分、とっちらかった感があります。手掛かりとなるクジャクの羽も、真相解明の鍵としては弱いでしょう。

本作品では、生命の危機に晒される探偵ですが、事件のしょぼさに比較すると、ここだけが浮いて見えます。事件の結末を迎え、なんとなくふっきれたように見える探偵の、気持ちの変遷もイマイチ分かり難いし・・・

シリーズの中では、消化不良の作品です。実に残念(再び)。

(注)読了したのは徳間文庫の翻訳版『暴発』で、書影は原著のものを載せています。

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