【本の感想】キース・ピータースン『幻の終わり』

キース・ピータースン『幻の終わり』

1991年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第9位。
1992年 このミステリーがすごい! 海外編 第5位。

キース・ピータースン(Keith Peterson)『幻の終わり』(There Fell a Shadow)(1988年)は、新聞記者ジョン・ウェルズが主役のハードボイルドシリーズ第二弾です。

『ニューヨーク・スター』紙のジョン・ウェルズは、自身のスタイルを貫く頑固で孤高のトップ記者。15歳の娘オリヴィアに自殺された過去を持つ、男やもめです。

12月のある雪の夜。ウェルズ、ランシング、マッケイら『ニューヨーク・スター』の面々が集うパブに、三人の男がやって来ます。ウェルズの友人ソロモン・ホロウェー、時事週刊誌の編集者ドナルド・ウェクスラー、そして見知らぬ男 海外特派員ティモシー・コルトでした。以前からコルトの記事をリスペクトし、出会えたことに僥倖を得るウェルズ。ウェルズとコルトは、意気投合し、コルトの部屋で語り明します。

しばし、互いに認め合ったプロフェッショナルな男たちの会話に酔いしれます。しかし、ウェルズの至福の時は、長くは続きません。ウェルズの目の前で、ベルボーイを装った何者かにコルトが殺害されてしまうのです。ここは、暗殺者と酩酊状態のウェルズの攻防が見所。前作『暗闇の終わり』は、地味目なウェルズでしたが、本作品は体当たりのアクション(といってもヘロヘロですが)を披露してくれます。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

やっとのことで生命の危機を脱したウェルズは、コルトの死の真相を探ろうと決意します。手掛かりは、パブに闖入してきてコルトと驚愕させたレスター・ポール、そしてコルトが死を迎える前に呟いたエレノアという名・・・。

コルトの妻ヴァレリー、ウェクスラー、ホロウェーら、からエレノアのことを聞くに及び、ウェルズは徐々に見たこともないエレノアに、思いを寄せるようになるという展開です。新聞記者魂のなせる技なのか、取材対象に心を奪われていく様が描かれていきます。そのせいでパートナーとの間がぎくしゃくし、と中年の悲哀がたっぷりです。

そんなウェルズの妨害をするのは、犬猿の仲である編集長ケンブリッジ・・・のはずですが、本作品は出番が少ないですね。同僚のランシングは、ウェルズへの思いが募ってきており、『暗闇の終わり』よりチャーミングさが倍増しています。ランシングは、シリーズが進む度にいい女になります。本作品は、ウェルズの態度に対する健気な女心が、二人の会話からにじみ出てくるのです。

ウェルズが、アフリカはセントゥーで起きた、10年前の政変との関わりに気付き始めた時、再びコルトを殺した男が目の前に現れます。ここは、後半のハラハラドキドキで、ハードボイルド感は随分高まりました。もっとも、シリーズは全4作品なので、ウェルズが命を落とさないのは、分かりきっているのですが。ウェルズに恨みを持つトーマス・W・ワッツ警部補との絡みも、ウェルズのピンチに拍車をかけて盛り上げます。

さてさて真相は!

エレノアに哀愁を感じはしますが、犯人は同じパターンで、ああ、この人ねと驚きは少ないのですよ。『夏の稲妻』に続く・・・

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