【本の感想】アンドリュー・クラヴァン『真夜中の死線』

アンドリュー・クラヴァン『真夜中の死線』

アンドリュー・クラヴァン(Andrew Klavan)『真夜中の死線』(True Crime)(1995年)は、死刑執行までの僅かな時間に、無実の罪を晴らそうと奮闘する新聞記者の姿を描いた、タイムリミットサスペンスです。

アンドリュー・クラヴァンといえば、キース・ピータースン(新聞記者ウェルズ シリーズ)、マーガレット・トレイシーの別名で、アメリカ探偵作家クラブのペーパーバック部門を受賞しているヒット・メーカー。本作品も、実に冴え渡っているじゃありませんか!

年若い妊婦を銃殺した罪で、死刑を宣告されたフランク・ビーチャム。事件から6年が経過し、刑の執行が成される日が到来します。無実を訴え続けているビーチャムでしたが、確たる証人が二人いるために、これを覆すことができません。フランクの無実を信じる妻ボニー、そして幼い娘ゲイル。フランクの諦念と微かな希望の間を揺れ動く拘禁心理が巧く著わされています。

正義の人ルーサー所長、俗物の教誨師シラーマン、フランク一家を支えながら無力感に苛まれるフラワーズ牧師等、ここオルセージ刑務所で繰り広げられる人間模様も、刻々と近づく死刑執行の時に、緊迫感を与えます。

ここで登場するのは、「セントルイス・ニューズ」の新聞記者スティーヴン・エヴェレット。事故にあった若き同僚の代打で、フランクのインタビューを行うことになります。このエヴェレット、同じ新聞記者でありながらジョン・ウェルズ(ピータースンのウェルズシリーズね)の硬派な男とは随分違います。不倫で前職を追われ家庭不和の中、またまた上司ボブの妻に手を出す女癖の悪いヤツなのです。しかも、ボブ、さらには妻バーバラにもバレて青息吐息の状態という情けなさ。

ここは一発男を上げるしかないエヴェレットは、フランクが無実であることをインタビューや当時の状況証拠から導き出します。残された時間は8時間強。ボブからクビを宣告され、バーバラから家を追い出されたエヴェレットは、義憤と汚名を上回る手柄への欲求が相まって、周囲の軋轢もなんのその、起死回生の真相究明へ乗り出します。この正義だけに突き動かされていないという点が、エヴェレットのモチベーションに真実味を与えます。

確証を得るものの、証拠が見つからない・・・。孤軍奮闘、街中を駆け巡るエヴェレットですが、彼の元へは朗報と悲報が交互にもたらされます。クライマックスにかけては、山あり谷ありのジェットコースター展開です。並行して語られるのはフランクの絶望。どうするエヴェレット!どうなるフランク!で、ラストまで引っ張られていくでしょう。

濃密な時間に気を取られましたが、ふと考えてみれば、本作品は、たった一日の出来事を描いているんですね。タイムリミットサスペンスとしては最短でしょうか(そんなバカな!は置いといて)。その後を多く語らないラストは、好みです。

本作品が原作の、1999年公開 クリント・イーストウッド監督・主演 映画『トゥルー・クライム』はこちら。原作のエヴェレットは35歳!

1999年公開 クリント・イーストウッド監督・主演 映画『トゥルー・クライム』
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