【本の感想】連城三紀彦『黄昏のベルリン』

連城三紀彦『黄昏のベルリン』

1988年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第1位。

連城三紀彦『黄昏のベルリン』は、冷戦時のベルリンの壁を舞台としたエスピオナージです。

画家の青山優二は、彼を訪問してきたドイツ人留学生エルザから、出生の謎を告げられます。青山は大戦時、ナチスの強制収容所で産まれたユダヤ人と日本人の混血児のようなのです。両親を知らない青山は、エルザの誘いを受け、自身のルーツを探りにフランスへ向かいます・・・

東西ドイツが、日本、フランス、ブラジル、ニューヨークの結節点となって、物語が展開します。本作品は、いくつかのエピソードが除々に一つの物語に収斂していくという、自分の好みのストーリー。かなり突拍子のない話ですが、単なる絵空事に終わらないのが作者の力量なのでしょう。

読み進めるほどに、捻りに捻ったトリッキーな展開に思わず呻ってしまいます。巧妙な仕掛けが徐々に明らかになる過程こそ、本書の見所と言って良いでしょう。青山が何者であるかが判明する件りで、最大の驚きが待っています。自身のアイデンティを発見する場面は、多少苦しいところはあるのですが、作品の面白さを損なうことはありません。

唯一、気に入らないのは青山のキャラクタ設定です。冷徹さの中に垣間見える四十男のめめしさにうんざりしてしまいます。ラストまでこれを引きずってしまい、完全燃焼とはいきませんでした。

ベルリンの壁が崩壊したのが1989年ですから、本作品の発表から間もなくになりますね。今や昔ですが、本作品は、当時の社会情勢をうまく取り入れた好著です。

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