【本の感想】ビル・プロンジーニ『殺意』

ビル・プロンジーニ『殺意』(原著)

ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini)『殺意』(Undercurrent)(1973年)は、名無しのオプ=探偵シリーズの第3弾です。

相も変わらず地味な探偵物語。でも良いのです。スタイリッシュなハードボイルドにはない、息も絶え絶えできるだけ頑張ろうからの、結局なんだかんだと、頑張っちゃいました的なリアルさに感情移入しちゃいます。

名無しの探偵が、ジュディス・ペイジからの依頼されたのは、夫ウォルターの素行調査です。ジュディスは、週末の度に二百マイルも車で走行し、外泊を重ねるウォルターに浮気の疑惑を持っています。探偵が尾行すると、ウォルターは、風光明媚は観光スポット サイプレイス・ベイのコテッジに辿り着きます。公園で男性と会った以外、さして目立った行動のないウォルター。しかし、翌日、探偵はコテッジの自室で殺害されているウォルターを発見するのでした・・・

仕事も私生活もパっとしない探偵が受けたのは、みじめで侘しい仕事です。ところが、思いもかけず殺人事件が発生し、否応なく探偵は巻き込まれてしまいます。そして、この事件には、意外な背景があったのでした・・・というのが大まかなストーリーです。

探偵は、サイプレイス・ベイとその近辺で、ウォルターの過去の交流を探り、ジュディスの知らない人物像を確立していきます。事件の鍵を握るのは一冊のレアなペーパーバック。ペーパーバック収集家の探偵は、著者ラッセル・ダンサーに会い、事件の真相に迫ります。その途端、ダンサーの命も狙われるようになって・・・と続きます。

本作品は、人間の隠された本質を剥き出しにする捜査活動が見所です。犯人は誰か、そして、ペーパーバックの意味は何なのか。この二つの謎が上手くリンクしているかというと今イチですが、肺癌ノイローゼのショボくれおっさん探偵の地道さは、バツグンの安定感なのです。

なお、ラッセル・ダンサーは、同シリーズの第7弾『脅迫』で再登場します。ダンサーもさしてパッとしない人なんだがなぁ。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『殺意』で、書影は原著のものを載せています。

  • その他のビル・プロンジーニ 作品の感想は関連記事をご覧下さい。