【本の感想】ビル・プロンジーニ『誘拐』

ビル・プロンジーニ『誘拐』

”名無しの探偵” 初登場作品。

ビル・プロンジーニ(Bill Pronzini)『誘拐』(The Snatch)(1971年)は、主人公の名前が作中に登場しないという「名無しのオプ=探偵」シリーズ 第一弾です。

投機家マーティネッティから、誘拐された息子の身代金を届けて欲しいと依頼を受けた名無しの探偵。犯人から、30万ドルを指定場所へ運ぶ指示を受けます。身代金を置き、その場を立ち去ろうとした探偵の耳に男の悲鳴が聞こえて ・・・

5,000冊のパルプ・マガジンを収集する元警察官 名無しの探偵。肺癌に脅えながらも、タバコを止めることができない47歳です。身代金の受け渡し場所で負傷し、付き合っている女性からは三行半を叩きつけられています。作品全体を通して滲み出るのは、中年男の悲哀ですね。人間味溢れるというより、あまりにリアルであるがゆえに、地味過ぎる探偵の物語となっています。プロンジーニが20代の頃の作品であることを考えると、倍も年上の男のうらぶれた感をここまで 表現できるとは、驚くべき洞察力です。

本作品は、誘拐事件の顛末は凡そ予想がついてしまいますが、ハードボイルドな探偵の活躍を堪能できる作品です。少ない頁数のわりに話が凝縮しているので、読後の満足感は高いでしょう。舞台となるサン・フランシスコの風景描写は、街とそこに暮らす人々が目に浮かぶようです(行ったことないけど)。

探偵と、親友エバハートら、彼を取り巻く人々を見続けていきたいシリーズとなりました(本シリーズは、新潮文庫からの徳間文庫からの講談社文庫と出版社を変え、中抜けしながら細々と翻訳されています)。

なお、本作品が原作である緒形拳 主演「名無しの探偵」は、火曜サスペンスドラマとして放映されています。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『誘拐』で、書影は原著のものを載せています。

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