【本の感想】ビル・プロンジーニ『誘拐』

本の感想 ビル・プロンジーニ『誘拐』
誘拐(原著)

“名無しの探偵”初登場作品。

ビル・プロンジーニ『誘拐』は、主人公の名前が作中に登場しないという「名無しのオプ=探偵」シリーズ 第1弾です。

投機家マーティネッティから、誘拐された息子の身代金を届けて欲しいと依頼を受けた名無しの探偵。犯人から30万ドルを指定場所へ運ぶ指示を受けます。身代金を置きその場を立ち去ろうとした探偵の耳に男の悲鳴が聞こえて ・・・

5,000冊のパルプ・マガジンを収集する元警察官 名無しの探偵。肺癌に脅えながらもタバコを止めることができない47歳です。身代金の受け渡し場所で負傷をし、付き合っている女性からは三行半を叩きつけられています。作品全体をとおして滲み出る中年男の悲哀ですね。人間味あふれるというより、あまりにリアルであるがゆえにとても地味な探偵の物語になっています。プロンジーニが20代の頃の作品であることを考えると、ここまで倍も年上の男のうらぶれた感を表現するとは、驚くべき洞察力です。

誘拐事件の顛末はおおよそ予想がついてしまいますが、ハードボイルドな探偵の活躍を堪能できる作品です。少ない頁数のわりに話が凝縮しているので読後の満足感が高いでしょう。サン・フランシスコの風景描写は、街とそこにくらす人々が目に浮かぶようです。

探偵と、親友エバハートら彼を取り巻く人々を見続けていきたいシリーズです。 本作品は、新潮文庫からの徳間文庫からの講談社文庫と出版社を変え、翻訳は中抜けしながら細々と続きました。

なお、本作品が原作である緒形拳主演「名無しの探偵」は、火曜サスペンスドラマとして放映されています。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『誘拐』で、書影は原著です。