【本の感想】長嶋有『ぼくは落ち着きがない』

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』

青春小説を読みながら自分の高校生の頃を振り返ってみると、当時の記憶が定かではないことに気付きます。充実した毎日を送っていなかったことだけは確か。何かに熱中したわけでもなく、波乱が起きたわけでもなし・・・。恋も、友情も、勉強も、部活もアツくはならず(縁がなく)、淡々と過ごしてしまったのです。実につまらない・・・

今更後悔しても始まりませんが、自分の子供らのように、楽しそうな高校生を見ると、ちょっとジェラシーを感じてしまいます。まぁ、大半の高校生は、自分と似たようなものなんだろうけれど(その分、大学生になってからの反動は大きかったなぁ)。

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』は、高校生の図書部員 望美の日々をつづった作品です。

作品の舞台は図書室と、図書室に併設された部室であって、他に場所を移すシーンはほとんどありません。登場人物たちは、図書室と部室へ姿を現しては、夢を語ったり、諍いをしたり、じゃれあったりします。

図書部員それぞれが、クラスでは浮いた存在なのでしょう。居場所を求めて、図書室へ、部室へ入り浸っています。主人公 望美を中心に、そんな彼らの日常が淡々と過ぎていきます。

淡々とし過ぎているがゆえに、小説として突拍子もない出来事を期待してしまうのですが、何も起こる予感すらないまま終わりを迎えます。あらずじを敢えて書くほどでもないように。多方の高校生は、こんな青春の日々を送ったんじゃないでしょうか。毎日が波乱万丈!っていうのは、ほんの極々少数で、普通の子らはちょっとしたさざ波に、一喜一憂してしまいますよね。

そういう意味で、本作品はとってもリアルです。リアルではありますが、わざわざそれを求めて作品を読む必要はないような気もします。自分の過去を振り返っているような錯覚すら覚えてしまいました。ひょっとして、本作品は、凡百の高校生らに、何にもなかったなぁ~と、嘆息させる意図があるのでしょうか。ならば、成功していると言えるでしょう。少なくとも、ここに1名いるので・・・

長嶋有作品は、そこはなとなく寂しさが見え隠れする作品が多いように思います。自分が著者の作品を気に入っている理由なのですが、本作品には残念ながらそれがありません。タイトルの「ぼくは落ち着きがない」が、結局、何を意味しているかわからなかったしねぇ。本作品を読んで、自分がすっかり落ち着きをなくしてしまったのは確かです。

なお、短編集『祝福』には、本作品のスピンオフが収録されています。

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