【本の感想】長嶋有『ジャージの二人』

本の感想 長嶋有『ジャージの二人』

北軽井沢の山荘へ避暑に出かけた「僕」と父。「僕」の妻には大好きな人ができてしまったし、父の三度目の結婚はうまくいっていません。古くてかび臭い別荘で過ごす”ちゃんとしていない二人”のまったりとした夏。

父の最初の妻の子が「僕」。高校生の頃に別れてしまった父と「僕」の会話は、親子というより気の置けない友達同志のようです。理想的な親子関係に見えるけれど、そのように接するしかない微妙な距離感が、二人にはあります。

それぞれを気遣っていながらも、肝心なところで踏み込んでいけない。30代の息子と50代の父の、ゆるさの中にあるちょっとした意地の張り合いです。

著者の芥川賞受賞作『猛スピードで母は』は、誰かが傷ついていることに、なんとなく直面したくない子供の気持ちが表れていましたが、本作品もその延長線上にあるのかもしれません。

「僕」の抱えている問題は、苦悩をはるかに超えて悲惨というべきものがあります。妻が、浮気相手の子供を産みたいと切望しながら、相手にフラれてしまったのです。世紀の大恋愛を告白された「僕」は、妻の行動を横目で見ながら、ジトジトするしかありません。山荘のかびた布団のようです。

小説家を目指して会社を辞めた「僕」。執筆活動にあてるはずの、初めて出かけた父との旅行は、流されるまま無為に過ぎていきます。そもそも「僕」には、自分を見つめ直すとか、何かを解決しようとか、何かを成し遂げようとかいった強い意志があるわけではありません。五右衛門風呂に入ったり、犬の散歩をしたり、ご近所さんと交流する毎日だけなのです。

ネガティブさを、まったり感に転換する そんな心地良さが著者の作品にはあります。

料理を作るのに飽きてコンビニ通に通い始める二人。ぐだぐだゆるゆるな二人を象徴するのが、小学校から貰い受けたジャージです。校章を胸につけたサイズLLのダサぽんジャージが、二人のまったりユニホームなのです。

本書には、「ジャージの二人」の続編にあたる「ジャージの三人」が収録されています。

「ジャージの二人」から1年後の山荘が舞台です。三人目は「僕」の妻であり、そして妻と交代するかたちで登場する、父の娘で「僕」の義理の妹 花ちゃんです。妻も花ちゃんもやっぱり問題を抱えて山荘にやってきます。そして父にも新たな問題が。

本作品では「僕」と妻との葛藤がより鮮明です。妻とその浮気相手のプリクラを奪ったり、携帯電話がつながらないことに密かな喜びを見出したり、手をからませてくる妻を拒絶したりと、「僕」はちょっと陰険です。でも、快哉を叫びたくなるのは、「僕」の”ちゃんとしてなさ”加減が、読者である自分と相通じるところが多いからなのでしょう。だから、「僕」がまったり感から、ふっきれた感に変わったとき、とても嬉しく思ってしまったのです。どうにも出口が見つからないときは、まったりな感覚は大切なのかもしれません。

2008年公開 堺雅人、鮎川誠出演『ジャージの二人』

2008年公開 堺雅人、鮎川誠出演『ジャージの二人』はこちら。

  • その他の長嶋有作品の感想は関連記事をご覧ください。