【本の感想】ベン・ホロウィッツ『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』
2016年 ビジネス書大賞受賞作。
ベン・ホロウィッツ『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』は、副題に「きみはどう立ち向かうか」とあるので、一般読者を対象とした課題解決本だと思い手に取りました。
しなしながら、CEO視点の「私、立派でしょう?」なアメリカンならではの論調の、回顧録風の著書です。従業員を解雇する時はどうする?、友達の会社から人財を引き抜く時はどうする?、のようにフツーのビジネスマンが考えない困難が記載されています。高みから物事を俯瞰できる立場の人物ならではでしょう。
本書が売れているのは、ベン・ホロウィッツのネーム・バリューもさることながら、CEOの立場で困難にぶち当たっている方が多いということでしょうか。自分の課題とはマッチしない内容で、読みながら退屈してしまいました。リーダーシップ論としては雑音が気になります。抽象度を上げて考えると重なる部分はあるのでしょうが、それはそれで面倒です。
本書の中から、キラリと光る文言を探すのも一苦労。マーク・アンドリーセン他との起業奮闘記として読めば、それはそれで楽しいかもしれません。
気になった箇所を以下に書き出してみましょう。
正しい製品を見極めるのはイノベーターの仕事であり、顧客のすることではない、顧客にわかるのは、自分が現行製品の経験に基づいて欲しいと思っている機能だ。イノベーターは、可能なことはすべて取り入れられるが、顧客が真実だと信じていることを無視しなければならない
顧客視点を無視しているかに見えますが、真に必要なことは顧客にも分からないのだ、と捉えました。
私があなたを全面的に信頼していれば、あなたの行動について何の説明もコミュニケーションも必要ない。なぜなら、あなたがすることは、私にとって最大の利益を生むからだ。
報連相など不要とのこと。そりゃ、かの国のCEOですから結果責任で割り切れるのでしょう。
教育は、早い話が、マネジャーにできるもっとも効果的な作業の一つだ。
かの国は、ビジネス上でマネージャからの教育という考えがないのかと思っていましたが、どうやら誤解のようです。
指標に基づく厳格な規律で優れた製品ビジョンを補うことは需要だが、指標で製品ビジョンを置き換えても、欲しいものは手に入らない。
ここは、アートとサイエンスの議論に広がりそうです。
最初のウィキをデザインしたコンピュータ・プログラマーであるウォード・カニンガムのおかげで「技術的負債」という比喩が一般的に通用する概念になった。
「技術的負債」はたまに耳にするワードです。ここで引用元が分かりました。
ある人々は生まれながらに優れたストーリーテラーの能力を持つ。同時に、誰でも努力を課されることによって、この分野の能力を大きく伸ばせるのも事実だ。すべてのCEOはビジョンを語るというリーダーシップ能力を伸ばすために十分な時間を使う必要がある。
ビジョンを語らないリーダーは、多いですね。何故なんだろう。
フィードバックを与える達人になるたければ、「小言のサンドイッチ」のような初歩的なテクニックに頼ろうとしてはならない。自分自身の性格と価値観にあったフィードバックのスタイルをつくり上げていかなければならない。
これは激しく同意します。紋切り型のコーチングでどう変わる?は常々疑問を持っていました。キャラに合わない方法は、結局、受入れられないのですよ。
企業のストーリーというのは、事業計画ではない。したがって、事業計画のように具体的である必要はない。だからストーリーとよばれるのだ。企業はストーリーを語るのに、それが説得力のあるもである限り、どれほど時間をかけてもよい。ストーリーのない会社はほとんどの場合、戦略のない会社だ。
似たような内容は、どの書籍でも語られています。既にこれが真理になっているんですね。
本書を読んで、結局、守るべきは人なのか会社なのか、自身の立場なのかが判然としなくなりました。著者の言いたいことの本質を、捉え損ねているのかもしれません。ひょっとしたら、CEOになったら役に立つことがあるかもね・・・