【本の感想】舞城王太郎『ビッチマグネット』

舞城王太郎『ビッチマグネット』

舞城王太郎『ビッチマグネット』は、ジャンルを一言で表すなら家族小説です。

マイジョーにしては至って普通の物語。フツー過ぎて却って戸惑ってしまいました。

「私」こと広谷香緒里は、父親 和志が愛人と出奔してから、母 由起子、弟 友徳と三人暮らし。本作品は、「私」と友徳の関わりを中心にストーリーが展開します。時に労り合い、時に暴力的に罵り合う「私」と友徳。友徳は、生来よりタチの悪い女(つまりビッチ)を引き寄せる磁石(マグネット)を持っている男子で、「私」はそんな友徳が気が気ではありません。本作品は、そんな「私」と友徳の関係を中心にストーリーが展開します。

「私」は、父親のことですっかり情緒が不安定。大学へ行って行動認知療法を学んでいます。友徳は、タチの悪い女のせいで、学校でいじめに合い、挙句の果てに暴力事件を起こして慰謝料を請求される始末・・・

「私」と友徳の間で交わされる会話は、マイジョー作品ならではの魂のぶつかり合いです。しかし、如何せん物語が平々凡々。父親に対し憤懣やるかたなしの「私」、ビッチに騙され精神的ダメージを被った友徳と、どうも登場人物に覇気がありません。とんでも話をぶっ込んでくる破天荒さが、いつか来る来ると読み進めるものの気配すら感じないという、フツーさ加減です。

「私」が、偶然出会ってしまった父親と愛人 佐々木花。花とメアドを交換する件では、良い話になりそうな気配を感じます。鬱を患った友徳を見て臨床心理士を目指そうとする「私」の姿に、マイジョー作品としての違和感が大きくなるばかり・・・

如何にもな家族小説っぽいクライマックスに、何か読み落としがあったのか不安にすら駆られてしまいました。だいたいビッチマグネットというタイトルは、作品のテーマなり世界観なりを表していないんですよね。すっかり道に迷ってしまった・・・

「私」が書いて納戸にしまった小説『骨』だけが、何かを暗示しているような・・・。で、何さ・・・

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