2010年 第23回 柴田錬三郎賞受賞作。
吉田修一『横道世之介』は、長崎から上京し、大学生活を送る、横道世之介の一年間を描いた青春小説です。
世之介は、 チャランポランで、真直ぐで、間が抜けていて、図々しくて、憎めない。誰にも愛されるとはいきませんが、何時までたっても懐かしい存在です。
世之介の日常は、平々凡々で、さして大きな事件は起こりません。しかし、読了すると自分にとって、忘れられない物語となっている事に気付くのです。世之介と彼をを取り巻く人々の二十年後が、所々で挿入されるという構成のなせるワザでしょうか。
大学を中退し家庭を築いた倉持、ゲイであることを告白した加藤、世之介が一目惚れした高級娼婦(?)千春、チャーミングさ爆発の恋人 祥子ちゃん。彼ら、彼女らが何かのきっかで、ふと、学生の頃の世之介を想いだし笑顔になります。(成長?した祥子ちゃんが見所です)
明るくポップな語り口なのですが、そこは吉田修一作品だけに、きっちりホロ苦さは残してあります。ラストがぐっとくるのです。結末が鮮烈だけに、自分も、世之介が忘れられない懐かしい存在となりました。
どこか自分に似たところがある。男性読者は皆、そう感じるのではないでしょうか。読書好きの男性と本作品について語り合うとそんな感想を聞くことができます。実際には、こんなにピュアな人物は存在しませんから、ささやかな羨望も混じっているのかもしれません。
大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失ったときにどうやって乗り越えるか、その強さを教えてやることではないかと思う。
本作品が原作の、2013年公開 高良健吾、吉高由里子 出演 映画『横道世之介』はこちら。
原作に忠実な映画化です。世之介役はぴったりなのですが、自分は、祥子ちゃんに限りなく華奢なイメージを抱いていました。素っ頓狂なボケかましぶりは原作の方が笑えます。
高良健吾、吉高由里子の二人は、金原ひとみ原作の映画『蛇にピアス』で共演しています。こちらの方は、随分と違う恋人同士を演じています。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
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