【本の感想】吉田修一『あの空の下で』

吉田修一『あの空の下で』

ここ何年も、出張のため、月イチで飛行機に乗ります。行き帰りの機中の移動時間を含めて仕事なので、旅という贅沢な気分は味わえません。そもそも飛行機が嫌いだし・・・

吉田修一『あの空の下で』は、ANAの機内誌『翼の王国』に連載されていた12作品と、旅にまつわる6つのエッセイが収められた作品集です。直接的にしろ、間接的にしろ何らかが旅に触れられていて、(旅にそそられはしませんが)旅の空で読むのにはピッタリの作品ばかりです。

それぞれの作品のタイトルが、映画から取られているのは、有り触れた感が否めません(「願い事」は、ハテ?どんな映画でしょう)。

著者の作品にしては、読後感がホンワカなものばかりです。旅のひと時を過ごすのであれば、そりゃそうでしょうけれど。つらつらと読んでいると、どこかで使ってみたい、ステキな一文がすーっとに入ってきます。

以下、いくつか引用してみましょう。

裏切らないのが親友ではなく、実は裏切り合える相手のことを親友と呼ぶのかもしれない。

「東京画」

真面目に生きていたか、と問われたら、たぶん不真面目だったかもしれない ・・・ と答えるしかない。
 でも、真剣に生きてきたか、そうじゃなかったか、と問われれば、私は自信を持って「真剣に生きてきた」と答えられるのではないかと思う。

「恋する惑星」

結婚って好きな人とするんじゃなくて、嫌いじゃない人とするほうがいいんじゃないかな。

「流されて」

本作品集の中での自分のお気に入りは、夫婦で搭乗した機内で昔の彼女と出逢ってしまった「願い事」、そして、特別の好意を持っていなかった男性との新婚旅行「流されて」「流されて」は、最後の一文でもっていかれること間違いなしです。では、6編のエッセイはというと、これは全く興味が持てませんでした。読了した途端に、忘却の彼方へ、です。

ちなみに、『翼の王国』は、存在は知っているものの、飛行機に乗るとすぐ眠くなるので読んだことはありません。本作品集も、もちろん地上で読みました。

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