【本の感想】ケン・フォレット『ペテルブルグから来た男』

ケン・フォレット『ペテルブルグから来た男』(原著)

1983年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第5位。

ケン・フォレット(Ken Follet)『ペテルブルグから来た男 』(The Man From ST. Petersburg)(1982年)は、第一次世界大戦前夜を舞台とした冒険小説です。著者の代表作の一つ『針の眼』のように、歴史の、”もしかして”、に思いを馳せさせる作品です(とは言え、自分は、この年代のヨーロッパ情勢には疎いので、世界史を紐解きながら読み進めたのですが)。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

1914年英国は、ドイツとの戦争に備え、ロシアとの協定を模索していました。英国側はウォールデン伯爵、ロシア側はウォールデンの妻リュディアの甥オルロフ公爵を交渉役の任に当てます。ロシアのアナーキスト フェリクスは、英露の同盟関係を決裂させるべく、オルロフ暗殺を企てますが、オルロフをつけ狙ううち、20年ぶりに恋人リュディア(今やウォールデン伯爵の妻ね)と再会することになるのでした・・・

本作品は、当時のヨーロッパ各国が、一触即発の緊張状態にある世界情勢のみならず、英国に押し寄せるサフラジェット(女性の参政権運動のメンバーね)等、押し寄せる時代の変化の波が背景となっていて興味をそそられます。国と国との対外的な軋轢だけでなく、国家と民衆、貴族と庶民、のような内政面での対立軸を持ち込んでいることから、一層、物語に重厚さを感じることができます。

オルロフ暗殺に執念を燃し、英国の警察組織の追跡を、再三に渡ってくぐり抜けるフェリクス。本作品は、フェリックスの行動力が見所の一つですが、ウォールデン伯爵とフェリクスそれぞれの、リュディアの娘シャーロットに見せる彼らなりの愛情表現が感動を呼ぶのです。フェリクスとリュディアの関係は、『針の眼』でもみら見られた、ハーレクインロマンス的な雰囲気を醸し出します。このラブラブがどうもなぁ・・・とは思うものの、本作品は、男女の愛というより父性愛の物語として読むべきでしょう。

シャーロットを、近代的な女性の自立の象徴として描いているようにも思えるし、冒険小説、恋愛小説、家族小説と、様々な要素を散りばめた感慨深い作品でした。

(注)読了したのは集英社文庫の翻訳版『ペテルブルグから来た男』で、書影は原著のものを載せています。

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