吉田修一『7月24日通り』 は、夢想女子の恋愛模様を描いた作品です。
OL小百合は、自身の住んでいる街を、未だ見ぬリスボンと重ね合わせて夢想するのが好きです。「岸壁沿いの県道」は「7月24日通り」、「水辺の公園」は「コメルシオ広場」・・・。それだけで、まるで異国にいるかのような、ハッピーな気分に浸れるのです。(「7月24日通り」は、リスボンの「Av. 24 de Julho」 ですね)
さしたる取柄のない小百合は、女性にモテモテの弟耕治が自慢です。
この気持ちは、よく分かります。自分に自信がない分、身内だったり、付き合っている異性だったりが人気ものだと、誇らしくもあり、ご相伴に預かっているような気にもなります。かく言う自分も、冴えない学生の頃にお付き合いしていたカノジョが自慢で、周囲からハテナ?な男でした。単体では存在価値がないという、今から思えば恥ずかしい限りの振舞い・・・
そんな小百合は、高校の同窓会に参加することにします。当時の憧れの存在 聡も帰省するらしいのです。
同窓会で再会した聡、そして彼の昔の恋人 亜希子は、再燃したかのような行動に出てしまいます。高校ではナンバーワンの聡も、都会ではぱっとしません。一方の亜希子も、小百合の同僚と結婚したものの、上手くいっていない様子。そんな二人の再会は、栄光ある過去を一瞬取り戻せたかの錯覚を覚えさせます。あぁ、これは不倫劇の始まり・・・
かと思いきや、亜希子と発展しないまま聡は、小百合の方へ。なんとまぁ、分かりやすい男なのでしょう。
小百合には、その頃、ちょっとした出会いがあり、さて聡とは当然、どうにもならんのだろうと思うのですが・・・。弟の交際を、女性の方が釣り合わないと、涙ながらに大反対した小百合なのにぃ。いやいや、これは裏切られたました。本作品は、結末の外し方が、ありきたりの恋愛小説と異なります。
納得はできないけれど、まぁ、実際はこんなものかもしれませんね。
本作品が原作の、春名里日 画 漫画『7月24日通り』 はこちら。これまた、吉田修一作品とは馴染まないタッチではないですか!
本作品が原作の、浦川まさる&佳弥 画 漫画『7月24日通りのクリスマス』 はこちら。映画版の漫画化ですね。
本作品が原作の、2006年 公開 大沢たかお、中谷美紀 出演 映画『7月24日通りのクリスマス 』は、こちら。
その他の吉田修一 作品の感想は関連記事をご覧下さい。
関連記事
【本の感想】吉田修一『あの空の下で』 ANAの機内誌『翼の王国』に連載されていた12作品と、旅にまつわる6つのエッセイが収められた作品集です。直接的にしろ、間接的にしろ何らかが旅に触れられていて、(旅にそそられはしませんが)まさに旅の空で…
【本の感想】吉田修一『さよなら渓谷』 過去の悲惨な出来事から抜け出せない男女。赦されたいけれどそれは別れを意味する。赦したいけれど赦すと自分を見失ってしまう。 哀しみや憎しみから出発する愛もある。ひとつの愛のかたちとして受け止めました。
【本の感想】吉田修一『パーク・ライフ』 純文学が表しようのないものを文章にする文学ならば、何もないことをしたためている 吉田修一 『 パーク・ライフ 』も純文学なのでしょう。何もないのに詰まらなくないのが素晴らしい。ハッピーもアンハッピーも…
【本の感想】吉田修一『パレード』 2LDKのマンションをシェアする男女の群像劇です。冒頭の、先輩の彼女に恋してしまった杉本良介の話は、ゆるゆるの青春小説の趣。涙あり笑いありで最後はホットなドラマを予想しましたが、読み進めると、これはす…
【本の感想】吉田修一『初恋温泉』 実在する温泉宿で繰り広げられる、5組のカップルの物語です。湯煙の中に人生の機微が透けて見えるような作品集となっています。ホンワカあり、ほろ苦ありで、身体の芯までじわーんとなるのが、”吉田”温泉の効能な…
【本の感想】吉田修一『太陽は動かない』 機密情報という金鉱を探り当て、高値で売り捌くことを生業とする、トレジャーハンターたちの活躍を描いた作品です。エスピオナージ+冒険小説+ハードボイルド+(ちょっぴりだけ)恋愛小説という贅沢な逸品となって…
【本の感想】吉田修一『春、バーニーズで』 デビュー作「最後の息子」の登場人物でゲイと同性していた男が主役の連作短編集です。10年後の彼は全うな人生を歩んでいますが、平凡な日々の中で違う人生が影を落とします。モラトリアム男の心の揺れが物悲しさを…
【本の感想】吉田修一『最後の息子』 デビュー作を含む短編集です。三篇とも趣きが随分と違いますが、共通するのは、現実に目を背けている人が登場することでしょうか。何気ない日常の風景に、ネガティブなものを投じると、忘れがたい物語に変じるから不…
【本の感想】吉田修一『東京湾景』 東京湾を挟んだ品川埠頭とお台場で展開されるラブストーリーです。携帯サイトで知り合ったワークスタイルもライフスタイルも違う二人。恋しくて愛おしくてといった胸焦がれるほどの思いを感じない、どこか乾いた部分…
【本の感想】吉田修一『横道世之介』 長崎から上京し、大学生活を送る横道世之介の一年間を描いた青春小説です。平々凡々で、大きな事件など起こりはしないけれど、忘れられない物語です。世之介と彼をを取り巻く人々のその二十年後が、所々で挿入される…
【本の感想】吉田修一『橋を渡る』 別々の3つの物語が、最終話の70年後の未来で一つにつながるという珍しい展開の作品です。ちょっとだけ波乱ありの日常が描かれるのですが、一体どこへ連れていかれるか分からず最終話でテンション下がり気味。しか…
【本の感想】吉田修一『路 (ルウ)』 台湾新幹線プロジェクトに携わった人々と、その周辺を描く群像劇です。物語は、現地台湾で、日本の威信をかけたプロジェクトを完遂せんと奮闘する人々を中心に展開します。プロジェクトの進捗と、それに伴う人々の悲…
【本の感想】吉田修一『静かな爆弾』 聴力にハンディキャップのある女性と、テレビ局に勤務する男性が織り成す恋愛小説です。男性をありがちな庇護者として描いておらず、湿度が極めて少ない作品です。なにより、音で隔絶された二人の出会いのシーンが素…