【本の感想】横山秀夫『陰の季節』

本の感想 横山秀夫『陰の季節』

1998年 第5回 松本清張賞受賞作。

横山秀夫『陰の季節』は、異色の警察小説です。

本連作短編集の主役の警官たちは、警察組織の中の管理部門に属しています。本やドラマでお馴染みの、犯罪捜査をおこなう警官の姿は、ここには見られません。警察の面子を守るために奔走し、組織の内部統制をいかに保ち続けるかに腐心する警官らの物語なのです。

対外的な失策は、即、自身の警察組織内での死に直結します。そういう制約の中で生きる警官らの野心や失意が、著者のキレの良い筆致によって、畳み込むように描かれていきます。現場の犯罪捜査とは無縁なのですが、心理的な緊迫感のある人間ドラマに仕上がっています。全編ともに意外な結末が待っているので、社会派推理小説が苦手な方でも十分に楽しめるでしょう。

■陰の季節
定期人事異動の季節。警務課の人事担当二渡警視は、警務部長より呼び出しを受けます。勇退するはずの天下りポストに刑事部長OB尾坂部が固執しているというのです。後任人事が頓挫することを危惧する警務部長は、二渡に尾坂部に勇退を説得するよう言い渡します。尾坂部に面会し、その胸のうちを聞き出そうとする二渡。だが、尾坂部は頑なに口を閉ざすだけだ。 ・・・

二渡が突き止めた尾坂部の悲しい過去とは何か。刑事としての生きざまが、鮮烈な余韻を残す作品です。

■地の声
監察官の新堂は、一通のタレコミ文書を受け取ります。生活安全課の曾根警部が、クラブのママとできているというのです。新堂は、組織防衛のため、捨てておけない事案として捜査を開始します。しかし、曾根の行動を洗うものの確たる証拠が見つかりません。新堂は、内部の誹謗中傷の可能性を疑い、曾根の調査と並行して内偵をすすめていく。 ・・・

警察組織の生き馬の目を抜く出世争いが印象的な作品。皮肉な結末に二渡警視の影が垣間見えます。

■黒い線
機動鑑識班の平野瑞穂巡査が失踪しました。彼女の描いた似顔絵によって、ひったくり犯が逮捕されたという『お手柄』の直後です。警務課 婦警担当の七尾は、事件性を懸念し平野の同僚への聞き込みを開始します。平野の行方がつかめないまま、やがて、彼女の車だけが発見されます。そこは、ひったくりのあったコンビニの周辺でした ・・・

『顔 FACE』の主役 平野瑞穂巡査の登場する作品。警察の守るべき威信とは何か。本作品の真相には、フィクションにとどまらない(お粗末な)リアルさがあります。

■鞄
警務部秘書課の柘植警部は、議会対策に奔走する毎日。ある日柘植は、定例県議会において、鵜飼議員が、県警への爆弾発言をするという噂を耳にします。一般質問で県警トップに恥をかかせることは、すなわち、柘植の組織内での死です。なんとしてでも質問内容を探り出したい柘植。しかし、鵜飼は決して口を割ろうとしません。議会の開催日は刻々と迫ってきて ・・・

男の野心の悲哀が如実にあらわれた作品です。最近、野心のある男を見なくなったせいか、新鮮ではありますね。

なお、本連作短編集(D県警シリーズ)は、二渡警視役を上川隆也が演じて、全てテレビドラマ化されています。こちらも、何度見ても味わい深い作品なのですが、全編 二渡警視を主役に据えてしまったために、原作よりあっさりしているように思います。ドラマでは、原作の各短編の主役が脇役になってしまっているからでしょう。本連作短編集では、主役たちの丹念な心理描写が、見所のひとつとなっています。

上川隆也主演『陰の季節』

本作品が原作の、2000年~2004年放映 テレビドラマ 上川隆也主演『陰の季節』はこちら。

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