【本の感想】横山秀夫『顔 FACE』

横山秀夫『顔 FACE』

横山秀夫『顔 FACE』は、D県警の婦警 平野瑞穂を主役に据えた連作短編集です。

瑞穂は、D県警 機動鑑識班で似顔絵を作成する準専門職だったのですが、上司に指示された不正に嫌気がさし、失踪事件を起こした過去があります。このいきさつは、『陰の季節』の短編「黒い線」で読むことができますが、本短編集では、瑞穂は秘書課の広報公聴係に配属されています。失踪事件がたたって冷や飯を食わされているのです。瑞穂に不正を強いた森島など「黒い線」の登場人物が本短編集にも顔を出しているため、前もって「黒い線」には目を通すことをおすすめします。本短編集での瑞穂の苦悩や成長がより鮮明になるでしょう。(クリックいただけると感想のページに移動します

D県警シリーズは警察組織の中の管理部門の人々が主役です。警察の面子を守るために奔走し、組織の内部統制をいかに保ち続けるかに腐心する警官らの姿が描かれており、警察小説としてとても新鮮でした。警官らの野心や失意がひしひしと伝わる人間ドラマなのです。

本短編集は、瑞穂が直接事件と関わり持つものもあるため、他のD県警シリーズとは趣が違います。信念を貫いたために、組織から爪弾きにされてしまった瑞穂のガンバリが、20代女性の視点で描かれていきます。瑞穂の嫉妬、悔悟、混迷といった内省的な部分にスポットがあたっているのも本短編集の特徴です。典型的な男社会の中で、事あるごとに過去の失敗をもちだされる瑞穂。ヘコまされても、ギリギリのところで撥ね返していく瑞穂の意地に、清々しさを感じることでしょう。

■魔女狩り
D県警が捜査中の事件でJ新聞社の特ダネ報道が続いています。瑞穂が配属された広報室へは、他の新聞社からのクレームが日々、持ち込まれてくるようになります。誰がネタ元なのか?D県警内に戒厳令がしかれる中、瑞穂は一人の女性記者に注目するのでした ・・・

似顔絵作成とは無縁の日々を送っている瑞穂は、傷心を癒せないでいます。そんな瑞穂が自身の原点に立ち返り、気持ちをもりたてていく様が描かれた作品です。

■決別の春
犯罪被害者対策支援室に転属した瑞穂。そこでの職務は犯罪被害者からの電話相談を受ける相談員でした。瑞穂が初めて受けた電話は、「きっと私、焼き殺されます ・・・」という言葉の残して切れてしまいます。このとき、相次ぐ放火事件にD県警は翻弄されていたのです。事件との関連性を直感した瑞穂は、ひたすら電話を待ち続けて ・・・

一本の電話から、ひとりの女性の悲しい過去を探りあててしまった瑞穂が描かれていきます。似顔絵をとおして彼女に寄り添う瑞穂の姿が印象的な作品です。

■疑惑のデッサン
県内で発生した喧嘩殺人は、鑑識課 三浦真奈美の似顔絵によって犯人が逮捕されました。瑞穂は後輩 真由美のデッサン力から、自身が陥ったと同じ不正の匂いを感じます。真由美の落ち込んだ姿を目にした瑞穂は、古巣である鑑識課の面々に、直接疑惑を問いただすのですが ・・・

仕事から離れたところで、もう一度、似顔絵を描き始めた瑞穂は、自分より力量とやる気の劣った真由美に複雑な思いを抱いています。真由美への嫉妬と向き合いながらも、手を差し伸べざるを得ない瑞穂の実直さが描かれています。真由美がぶちまける瑞穂への感情の発露が見所でしょうか。

■共犯者
銀行強盗の訓練中、時を同じくして別の支店で本物の強盗事件が発生しました。このためD県警は現場への到着が遅れるという失態を犯します。訓練については支店長を除き、知らされていません。訓練に参加した瑞穂は監察官からの追求で、同期の婦警に話をしたこと口にしてしまいます。友情が壊れかけている瑞穂は信頼を取り戻すべく、不審な行動をしていた人物の似顔絵を描き、聞き込みを開始するのでした ・・・

瑞穂の似顔絵と推理が冴える作品です。本作品は、短編を読み進めていくと瑞穂が成長していることが良くわかります。

■心の銃口
南田安奈婦警が襲われ拳銃が強奪されました。安奈は意識不明のため、犯人の足取りがつかめません。強行班捜査係に転属した瑞穂は、現場の状況から目撃者を特定し似顔絵を作成します。しかし、それは全くの見当違いの人物でした ・・・

本短編で、いくつかの失敗を繰り返しながら、警察官として自覚していく瑞穂が描かれています。どんでん返しもあって、ミステリとして十分に楽しめる作品です。瑞穂の心の銃口という言葉が、爽快感をともなった余韻を残します。

2003年 放送 仲間由紀恵、オダギリジョー 出演 ドラマ『顔』はこちら。

2003年 放送 仲間由紀恵、オダギリジョー 出演 ドラマ『顔』
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