【本の感想】横山秀夫『クライマーズ・ハイ』

本の感想 横山秀夫『クライマーズ・ハイ』

2003年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門第1位。
2004年 このミステリーがすごい! 国内編第7位。

横山秀夫『クライマーズ・ハイ』は、1985年 日本航空123便墜落事故報道の舞台裏を描いた作品です。

地元紙北関東新聞の記者 悠木和雅が、17年前の事故発生当時を振り返るかたちでストーリーは展開します。突然全権デスクに任命された遊軍記者 悠木の悪戦苦闘の日々がつづられていきます。

航空機墜落という未曾有の大事故に沸騰する記者たち。他社より如何に早くスクープをものにするか。生き馬の目を抜くような報道合戦の始まりです。全ては全権デスク 悠木の手腕にかかっています。

記者たちの思惑は様々です。ペンの力で一旗あげようとするもの、茫然自失の体で何もできなくなってしまうもの、過去の栄光にすがり現場の手柄を潰そうとするもの。おまけに、社内では社長派と専務派による権力闘争がおこなわれています。報道記者としての生涯の名誉を勝ち得るチャンスなのです。憤り、焦り、嫉妬、苦渋が渦巻くなか、悠木の統制は力を失い、そして ・・・

本作品は、事故そのものの悲惨さを描いてはいません。航空機墜落という事実があり、あくまで、それを目の当たりにした報道記者たちの人間模様が主軸なのです。読んでいて、じりじりとした苛立ちを感じたり、胸ぐらをつかみたくなるような怒りの衝動にとらわれたりするでしょう。それだけ感情を昂ぶらせてくれるのです。元新聞記者の著者だけに、報道に対する真摯な熱意が伝わる臨場感たっぷりの人間ドラマに仕上がっています。

本作品は、全権デスクとして混迷を極める悠木の日々と、山登り仲間安西の滑落事故や、悠木の家庭の問題とが並行して語られます。追い詰められていく悠木は、友の言葉を思い出します。なぜ山に登るのかとの(定番の)問いに、安西は「下りるために登るんさ」と応えるのです。所々に見られる悠木の選択が、結果として、この応えに凝縮されているように思えます。ストーリーの縦糸横糸ががっちり絡み合って、胸をうつ重厚な作品になっていますね。特に、父と子の不器用な愛情は、感涙ものです。

事故から17年後。悠木は、57歳となった現在、安西の息子と、安西の滑落現場である衝立岩に登ります。そこで悠木は何を見つけるのでしょうか。ここでビジネスマンであり、父親である自分はホロリときたのですが、どうでしょう。

本作品は、人生の機微を謳いあげた名品です。

ちなみに、日本航空123便墜 墜落の日、自分は、就活でJALの面接を受けに地方から東京へ移動したのでした。 朝、山の手線に乗った時、乗客の新聞で事故の事を知りました。そういう意味でも、この事故は忘れがたいんですよね。

2008年 公開 堤真一主演『クライマーズ・ハイ』はこちら。

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