2005年 週刊文春ミステリーベスト10国内部門第3位。
2006年 このミステリーがすごい!国内編第3位。
横山秀夫『震度0』は(悪い意味ではなく)イラつく警察小説です。
著者の警察小説を読むと、警察機構の中で繰り広げられる男たちの鍔迫り合いに、感情が昂ぶっていくのが常です。概ね正義に貫かれた人々が主役ですから、感情が沸騰するようなストーリー展開であっても、どこかに爽快感は残しています。
しかし、本作品は、登場人物たちの嫌らしさが渦巻いており、物語に入り込むと抜け出せなくなるような不快感が付きまといます。端的に言えば、本作品には厭な奴らしかいません。読み進めると、男の押し隠しているドロドロした部分を見せ付けられて、イラついてしまいます。このリアルな不快感こそが、著者の他の作品とは違った読み応えを与えているのです。
阪神大震災の最中、被災地から700km離れたN県警が、本作品の舞台です。
主要な登場人物は、N県警本部長 椎野、同警務部長 冬木、警備部長 堀川、刑事部長 藤巻、生活安全部長 倉木、交通部長 間宮の6人。椎野は46歳の、冬木は35歳の警視庁キャリア、堀川は51歳の警視庁の警視庁準キャリア、他の3人は50代後半の地元ノンキャリアと、複雑な縦社会が形成されています。N県警は、警務課長 不破の失踪事件に端を発して、その後、一大事に見舞われるのです。
大震災そっちのけで己の野心と保身にかまけ、裏切りや足の引っ張り合いを演じる警察幹部たち。職住一体の息苦しさが、登場人物、そしてその家族らの軋轢に輪を掛けていきます。
不破の行方を秘密裏に探ろうと腐心する警察幹部たちは、それぞれの思惑で行動し、徐々に疑心暗鬼に陥ります。この混乱が、事件を一層不可解なものにしてしまいます。一向に進展しない事の成り行きに、読者は焦燥感を覚えることでしょう。じわじわとした展開はストレスが溜まりますが、それが本作品の味と言えます。
やがて明かされる不破の過去は、警察幹部たちを大きく揺さぶっていきます。あまりに遣る瀬無い事件の真相が明らかになると、N県警は、史上最悪の事態に陥ってしまうのです。なるほど、警察機構における欺瞞を描くのに、効果的な演出です。しかしながら、些か考えられない結末ではありますね。もちろん、本作品は、そこだけを見るべきではないのでしょうけれど。
最後の最後に、警察幹部たちが下した決断は何か。散々イラついた後に、正義の重さが心に残る一冊でした。
本作品が原作の、2005年 放映 上川隆也、國村隼 出演 ドラマ『震度0』はこちら。
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