【本の感想】恩田陸『夜のピクニック』

恩田陸『夜のピクニック』

2005年 第26回吉川英治文学新人賞受賞作。
2005年 第2回本屋大賞受賞作。

恩田陸『夜のピクニック』は、賢くてルックスの良い高校生たちが、八十キロに及ぶ歩行(「歩行祭」)をしながら、愛や友情や憎しみや赦しといった感情のごちゃ混ぜになった時を過ごすというお話です(この賢くてルックスの良い、に若干抵抗がありますが)。

著者は、この年代のコらの感情の著し方が巧です。些細な仕草や視線の動きを描写することによって、登場人物たちの戸惑いや沸騰する怒り、深い哀しみを伝えてくれます。「歩行祭」という年に一度のイベントを通し、複雑な家庭環境にいる貴子と融、二人の関係性を中心に、彼らを取り巻く人々の思いが交錯していくという展開です。

貴子と融のモゴモゴとした振る舞いから、ハテ ?青春ラブストーリー?と想像しましたが、さにあらず。本作品は、安直な恋愛ものではないのです。このモゴモゴ、実に気になるのですが、ミステリのように、ラストまで引っ張られました。

生徒それぞれ、感情的に揺れ動きながら疲労困憊の末、辿り着いたゴール。読者は、生徒たちと一緒にラストの爽快感を味わうことでしょう。青春小説が好みならば、一読に値します。あぁ、若さって素晴らしい!と、月並みながら感嘆してしまいました。

群青色の高校生活を送った自分としては、(八十キロ歩きたいかどうか別として) この手の作品を読むと羨ましくて仕方がありません。今となっては、読書で補うしかないのです。

本作品には、名言がチラホラと見受けられます。以下に、抜き出してみましょう。

だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

僕たちは、内心でびくびくしながらもギラギラしてる。これから世界のものを手に入れなきゃいけない一方で、自分の持っているものを取られたくない。だから、怯えつつも獰猛になっている。

好きという感情には、答えがない。何が解決策なのか、誰も教えてくれないし、自分でもなかなか見つけられない。自分の中で後生大事に抱えてうろうろするしかないのだ。

本作品が原作の、2006年公開 多部未華子、石田卓也 出演 映画『夜のピクニック』はこちら。

2006年公開 多部未華子、石田卓也 出演 映画『夜のピクニック』

学芸会か!とツッコミを入れたくなるシーンが所々ありますが、歩行祭は一度経験したくなるような爽やかさ満載。多部未華子の、フツーの少女さ加減が良いです(今や奥様ですね)。貴子と融のモゴモゴから始まるラストは、これぞ青春!良いもの見せていただきました。

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