【本の感想】湊かなえ『リバース』

本の感想 湊かなえ『リバース』

深瀬和久は人殺しだ

湊かなえ『リバース』は、こんな一文で幕を開けます。

ニシダ事務機器 営業マン 深瀬和久の元に届いた差出人不詳の告発文です。深瀬は、三年前、同じ明教大学に通う親友 広沢由樹を事故で亡くしていたのでした。広沢の死に責任を感じていた深瀬は、以来、十字架を背負い続けています。

広沢は、三年前、同じゼミ生の浅見、村井、谷原との旅行の最中に亡くなりました。どこからどうみても運転ミスによる事故。ただ、深瀬には、大雨の中、別荘から駅まで、遅れてきた村井を迎えに行かせたという負い目があるのです。広沢と同様、地味なグループだった深瀬は、越智美穂子というカノジョを得て、平穏な人生を歩んでいます。告発は、あの時止めていれば、という後悔の念を甦えらせてしまいます。

深瀬は、告発文が浅見ら三名それぞれに届いていることを知ります。果して、告発文は、誰が送ってきたものなのか。そして送り主の意図は何なのか。

告発文に端を発し、深瀬は、広沢について何も知らないことを自覚します。そして、親友の命が絶たれるまでの人生を紐解き始めるのです・・・

広沢の過去を知る人々を訪ね歩く深瀬。着色する前の塗り絵のような存在だった男が、徐々に色彩を帯びてきます。意外や意外な広沢の人物像が、明らかになるのです。ここは、本作品の見所の一つですね。親友の事を何にも知らんかったのかい!という湧き上がる疑問は、著者が巧く蓋をしてくれます。ここがないと、真相が弱くなってしまうので、大変結構なお点前です。

読者は、早々に告発文の送り主の目星がつくでしょうから、誰が、が分かっても驚きは大きくありません。動機も必然的に明らかです。広沢の事故死に謎が入り込む余地はなさそうな・・・。 読み進めていくと、きれいに収まってしまう予感に脱力しかけます。タイトルの意味だけが謎のまま。

ところが著者は、ラスト一頁でやってくれるのです。いわゆる最後の一撃=finishing stroke。

ここに来て、タイトルが何を表しているかが分かる仕掛け。うんうん、こういうミステリは大好物です。

2017年 放送 藤原竜也、戸田恵梨香 出演 TVドラマ『リバース』はこちら。

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