殺人の告発文で幕を開けます。読者は、早々に目星がつくでしょうから、驚きは大きくありません。 読み進めて いくと、きれいに収まってしまう予感に脱力しかけます。タイトルの意味だけが謎のまま。ところが著者は…
【本の感想】湊かなえ『サファイア』
湊かなえ『サファイア』は、宝石を象徴的にストーリーへ組み入れた短編集です。人の悪意に焦点を当てた後味の悪いイヤミスはなくて、ほっこり系のミステリが多く収録されています。自分としては”白”湊かなえの方が好みではあるので、アタリ、ハズレの振れ幅が大きい著者の作品の中ではアタリです。
愉しませてもらった作品は、「ルビー」、「ダイヤモンド」、「猫目石」、「ムーンストーン」、「サファイア」、「ガーネット」です。ほぼ全作品になりますね(「真珠」はピンとこずです)。「ガーネット」は「サファイア」の後日談で、その他の作品には繋がりはありません。
■ルビー
瀬戸内海に面した故郷へ、三年振りに帰郷した独身女子。実家のお隣には立派な老人福祉施設が建設されていました。両親、そして二つ下の妹は、その施設の住人であるおいちゃんととても仲良し。ある日、おいちゃんは家族にブローチをくれたのですが・・・
昭和三十年に起きた1億円のブローチにまつわる<情熱の薔薇事件>。その出来事の顛末を姉は妹に語ります。ひょっとしてこのブローチは・・・。長閑な田舎に住む人々の優しさを感じる、ハートウォーミングな作品です。因島出身の著者ならでは。
■ダイヤモンド
古谷治は、命を助けた雀に恩返しを申し出れられます。それではと、治はお見合いパーティで知り合い、交際に発展した山城美和の一番欲しい物を探すよう指示するのでした。雀が見つけたもの。それは、治を幸せの絶頂から、どん底に突き落とすはめになって・・・
どこかでお目にしたような御伽噺をモチーフにしたプロットではありますが、ラストの苦味は良いですね。
■猫目石
行方不明となったお隣 坂口さんの猫を探し出した大槻家の面々。その縁をきっかけに坂口さんは、大槻家の夫 靖文、妻 真由子、娘 果穂、それぞれに心ざわめかせる内緒話しを囁くのでした ・・・
平和な家族の裏側を描いた作品です。余計な事に首を突っ込み過ぎると、はてさて。家族の秘密が、ステレオタイプすぎるのか難でしょうか。
■ムーンストーン
県議会議員に落選した夫。それ以降、DVを受け続ける妻は、夫を故殺してしまいます。被告を訪ねてきた女性弁護士は、彼女の中学時代の友人でした・・・
二人の中学の頃の思い出が語られ、そして、現在に戻るとちょっとしたサプライズが用意されています。ムーンストーンにまつわるエピソードが効果的で、鮮やかな印象を残す作品です。
■サファイア
恋人 中瀬修一を電車事故で亡くした紺野真美。真美は、修一が詐欺まがいのキャッチセールスをしていたことに気付きます。殺人を疑う真美でしたが・・・
単独の作品として、哀しい余韻を残しながら終えてもよいのでしょうが、真実は「ガーネット」で明らかになります。
■ガーネット
作家デビューを果たした紺野真美。作品『墓標』の主演 麻生雪美の指には、学生時代の恋人 中瀬修一が売ったと思しき高額の指輪がはまっています・・・
失敗があっても、それがより良い人生のステップの糧となる。そういう思いが端的に著された作品です。本作品集の中では、「サファイア」「ガーネット」の続きものがベストです。
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