【本の感想】舞城王太郎『みんな元気。』

舞城王太郎『みんな元気。』

16年前の今日、12月25日、娘が生まれました。

最近はすっかり、フツ―の距離感の父と娘ですが、娘が幼い頃には、お気に入りの遊びがありました。

自分が短いコトバを書いたら、それに娘がコトバを加えたり、イラストを描きます。自分がイラストを描いたら、娘がコトバを書き、それに自分がまたまたコトバやイラストを加えていきます。ぐるぐるぐるぐる。 ・・・・。ひたすら、思い付いた事や、耳から入ったコトバをどんどん二人でつなげていって、ノートの見開きいっぱい、余白が無くなるまで続けるのです。ひとつひとつに別に意味なんて無いのだけれど、出来上がった全体を眺めていると、物語性を感じたりするから不思議です。

So キュート!

舞城王太郎『みんな元気。』は、こんな自分と娘の遊びに似ています。

色んな楽しい事、辛い事、気味の悪い事、痛快な事、エッチな事をぐるぐるぐるぐるしていったら、こんなお話が出来ましたよ、といった具合です。コトバがコトバを生んで、枝葉を付けて、どんどん広がっていきます。枝葉ばかりを見ていると、迷子になってしまうから、コトバの森をゆったり見渡して上げることが必要です。

物語は、主人公 枇杷の姉ゆりが、眠りながら浮かんでいるところから始まります。家族の中で、浮くことができるのは、ゆりと妹の朝ちゃんだけです。父や母、枇杷、弟の秀之は、真似することができません。

枇杷が小学六年の頃、竜巻と共に杉山家がやって来ました。息子の昭を置いていく代わりに、朝ちゃんを杉山家の娘にするといいます。そして、朝ちゃんは、強引に空の上のどこかにある杉山家へ連れ去られてしまうのでした。枇杷も、ゆりも、父も、朝ちゃんを追って竜巻に飛び込んでいきます ・・・

So キュート!メルヘンなのか、幻想小説なのか。

そこから物語は、成長していく枇杷と、枇杷の家族との関係だったり、恋愛だったりに広がりを見せます。死体で傘を作る殺人鬼や、空飛ぶ警察官が登場して、現実と非現実がごちゃまぜです。枇杷が朝ちゃんと巡り合うシーンは、どーんと悪夢の世界に真っ逆さま。

一見するとわけがわかりません。なにせぐるぐるぐるぐるなのです。ちょっと離れて見なければなりません。

自分の解釈はこう。

本作品は、子を亡くし崩壊した家族、そして愛することに臆病になってしまった女性の物語なのではないでしょうか。そう考えると、朝ちゃんが、杉山家に行くと決断した時に発した、「みんな元気」は、とても悲しく響いてきます。ラストは、朝ちゃんの赦しを感じ、新しい恋に踏みだす枇杷を描いたのかもしれません。では、昭は何もの?など、色々と語り合ってみたくなる作品です。(考えすぎでしょうか)

同時収録は、『Dead for Good』『矢を止める五羽の梔鳥』です。『矢を止める五羽の梔鳥』は殺人鬼の話だろうけれど、短いだけに、わけ分からない度が高いですね。

ちなみに、当時、自分は、娘が二人の創ったノートを枕の下に隠して寝てるのを知っていました。

So So キュート!

そして、誕生日おめでとう。とうちゃんは、ぐるぐるっと永遠にキミのシアワセを祈っています。

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