宝石を象徴的にストーリーへ組み入れた短編集です。人の悪意に焦点を当てた後味の悪いイヤミスはなくて、ほっこり系のミステリが多く収録されています。アタリ、ハズレの振れ幅が大きい著者の作品の中ではアタリです…
【本の感想】湊かなえ『豆の上で眠る』
湊かなえ『豆の上で眠る』は、肉親に対する不信感から抜け出せない女性の、葛藤を描いた作品です。
物語は、帰郷する大学生の安西結衣子の回想シーンから始まります。小一の夏休み。二歳年上の姉 万佑子が行方不明になってしまったのです。誘拐されたのか・・・母 春花ら家族の心配をよそに万佑子の行方は杳として知れません。
ここは現在、過去を行きつ戻りつし謎を膨らませながら、じらされた挙句、過去の万佑子 失踪事件が一気に語られます。
混乱しパニックに陥る家族は、必死に原因を探ろうとします。徐々に奇妙な行動を取り始める母。変態探しをしているという噂が立ってしまいます。そして、母は、その役目を結衣子にさせるのが一番と確信したようなのです。
本作品の半分以上、第四章までは、結衣子 捜査の経過です。万佑子を思う母の執念はまさにイヤミス。結衣子との絆もなんのその。母が取った手段がいやらしい。万佑子の探す道具と化した結衣子の、母に対する不信感が、読者の感情を逆なでするでしょう。ここは、流石手慣れたものですね。
そして二年後、突然、万佑子が保護されたとの報がもたらされます。しかし、結衣子は、万佑子に対して違和感が拭えません。彼女は本当に姉の万佑子なのか。それ以来、結衣子の間違い探しが始まります。
幼い頃のDNA鑑定でも本ものと証明され、ほどなく誘拐犯が自主をしてきたことで解決・・・のはずが、どうしても納得できない結衣子。大学生となった結衣子が、この事件を反芻するうち、遂に真実がっ!という展開です。しかしながら、途中までの盛り上がりが、失速してしまいますね。さすがに、これはないでしょう。真相については、なるほどとなるのですが、小二の子供はそんない無邪気ではありません。ここがしっくりこないと、フワフワしてしまうんですよね。タイトルの寓意(アンデルセン童話『えんどうまめの上にねたおひめさま』ね)もぐぐっと刺さってこないわけです。残念極まりない。
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