【本の感想】桂望実『平等ゲーム』

桂望実『平等ゲーム』

世の不平等を嘆いてみても、如何ともし難いのは明白です。概ね人生は富の多い、少ないに左右されています。より多くのお金を得るのは、本人の努力があってこそ、ではあるのでしょうが、結果だけを見て不平等を呪いたくなるのが常。じゃあ、誰もが平等だったらシアワセなのかしら?を小説にしたのが、桂望実『平等ゲーム』です。

本作品の舞台は、住民が皆平等というルールのもとに暮らす瀬戸内海のとある島です。四年毎の抽選で職業が定められ、買い物も金銭を必要とせず、住まいに関わる費用はなし、医療や学校も無償、決め事は住民の投票によってなされます。まさに、○○主義国家を超越した理想郷です。

鷹の島に生まれた芦田耕太郎は、島へ移住する人を勧誘する役割を持った青年です。耕太郎は、島こそが究極のユートピアであるという信念を抱いているのです。何ものも疑わない絵に描いたようなイノセント。口惜しさ、嫉妬、挫折といったネガティブな感情とは無縁です。耕太郎が非人間的に見えるのは、他者と比較することのない人生を歩んできたから。なるほど、”もしもの世界”は、設定がきちんとしていなければ説得力がありません。

耕太郎は、抽選に当たった人に勧誘を勧めます。全ての人が島へ移住したいわけではないことが、耕太郎には不思議でたまりません。ある日、夢を実現するため島を出た元カノ横山礼子から、島へ戻りたいと連絡を受けます。島へ戻るためには、帰島申請とそれを承認するための住民投票が必要なのです。このあたりから、平等であり続けるための不協和音が見え隠れしてきます。やりたくない仕事に当たってしまった寺西さん、DVの事実が判明した山田さん夫妻・・・。

島外の人々を触れ合い、絵を描くことに喜びを感じ始める耕太郎は、生きがいとは何か、について悩みを深めていきます。この耕太郎が、気づきを得る様々なエピソードが良いのです。そして、島に巣食う欺瞞を知ることとなった耕太郎。信じていた世界が揺らぎます。耕太郎は、正義を貫こうとして・・・と続きます。

人と触れ合うこと、信念をへし折られることで、嫉妬や挫折を生まれて初めて感じる耕太郎。辛い決別の時を経て、耕太郎は、未来に希望を見出すことがでるのでしょか。本作品は、人生とは何か、生きがいとは何かを問いかける成長物語でもあるんですね。

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