【本の感想】乙一『銃とチョコレート』

乙一『銃とチョコレート』

2007年 このミステリーがすごい! 国内編 第7位。

乙一『銃とチョコレート』は、怪盗の隠された財宝をめぐる少年の冒険譚です。

本作品は、ジュブナイルですが、大人が読んでも楽しめるミステリ的な展開をみせてくれます。ただ、漢字が少ないのは、些か読み難いのですよねぇ。‬

移民の子リンツは、母親メリーと二人暮らし。父親は、リンツが11歳の頃、亡くなってしまったのです。そんな父親との思い出は、露天商から入手した聖書。火事から子供を救った若者が神父に寄付した聖書という曰くつきのものなのです。

この聖書には、世間を騒がせている怪盗ゴディバのものと思しき地図が入っていました。「英雄の金貨」、「白銀のブーツ」、「いつくしみの聖杯」、「わるふざけの王冠」・・・。リンツは、宝の隠し場所が記されている地図を、ゴディバを追う名探偵ロイズに見せ、役立ててもらおうとするのですが・・・

どこの国の、何時の時代かは語られません。移民への差別がまかり通っている町で、民衆は、怪盗ゴディバ V.S.名探偵ロイズの勝敗の行方を固唾を飲んで見守っているという設定です。いじめっ子のドゥバイヨル、ロイズの秘書ブラウニー、警視ガナッシュ等、登場人物を含め、まるで絵本のような(挿絵はないのですが)世界観です。いつもの乙一作品と違う・・・。途中まで、なかなか読み進めようとしてもエンジンがかかりません。

ロイズは地図を偽物と断定し、リンツを皆の前で噓つき呼ばわりします。失意のリンツ。しかし、リンツを手酷くいじめ続けていたドゥバイヨルは、ロイズが宝を独り占めしたいのだと推理します。リンツとドゥバイヨルは、地図を取り戻そうとロイズの宿泊先に侵入を試みるのでした。ところが、ガナッシュ警視に見つかって・・・。

後半は、ロイズ一味と、リンツらの宝探し合戦です。聖書と地図から暗号を解読し、宝の在りかを導き出したロイズ、そしてドゥバイヨル。メリーを巻き込んで、クライマックスは、二組の直接対決が描かれます。丁々発止の頭脳戦、そして肉弾戦は大いに盛り上がります・・・が・・・あれれ、ゴディバが不在のまま物語が進んでいくではないですか・・・

そう、ロイズが追っていたゴディバとは何者なのか、が本作品のキモです。正体は、凡そ検討が付くので驚きは少ないのですが、それは問題ではありません。少年が冒険心を抱くことの大切さを、本作品では見るべきなのです。(登場人物の名がチョコレートにまつわるのはご愛敬)

ラストの、ロイズに心奪われた(?)リリーの真実は、ちょっとしたサプライズですね。

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