【本の感想】乙一『天帝妖狐』

本の感想 乙一『天帝妖狐』

1970年代のオカルトブームの最中、つのだじろう『恐怖新聞』と『うしろの百太郎』は、当時の全国の小中学生を虜にしました。

元来怖がりの自分が、心霊現象のなんたるかに初めて触れたのが、これらの漫画です。コックリさんのお作法も、つのだじろうに教えてもらったことになるでしょうか。となりのクラスのやつがコックリさんに憑かれて天井に張り付いた、という噂をまともに信じていたのだから、自分の中ではタブーな遊びではありました。

乙一『天帝妖狐』のタイトル作は、このタブーな遊びで憑かれてしまった少年の物語です。

ひとり狐狗狸さんに興じる孤独な少年 夜木は、呼び出した早苗と名のるものに、身体をわたす約束をしてしまいます。不死となったかわりに、怪我をする度、この世ならぬものに変じていく夜木。夜木は、長ずるにつれて、全身を包帯に包んで人目から身を隠していきます。

あるとき、少女 杏子は、行き倒れとなった夜木を助けます。異様な風体の夜木の中に、優しい心根を見出し、何くれなくと世話をする杏子。長らく世間から隔絶していた夜木でしたが、徐々に、杏子と心を通わしていきます。しかし、夜木を巻き込んだ暴力事件をきっかけに、夜木は抑えきれない獣性を目覚めさせてしまうのでした。 ・・・

本作品は、乙一さんのせつない系に属するホラーです。

夜木と杏子の視点から交互にストーリーが展開していくのですが、二人の交差しない深い思いやりの情がせつなさを満開にします。狼男の孤高さにフランケンシュタインの悲哀を加えを和風テイストに仕上げたような作品となっています。

場所や年代は特定されないけれど、どことなく昭和の匂いがするのは、自分だけでしょうか。コックリさんから子供の頃のオカルトブームを連想したのかもしれませんね。本作品が自分の心に響くのは、せつなさが懐かしさをともなっているからなんだと思います。

『天帝妖狐』の同時収録作品は、『A MASKED BALL – 及びトイレのタバコさんの出現と消失 -』。

トイレの落書きに示唆された出来事が、学校で起きてしまうというミステリタッチの作品です。トイレの落書きが匿名掲示板(今ならさしずめSNSか)になって、そのトイレを利用しているもののみに、情報伝達がなされるという設定です。デジタルを逆手にとってアナログ感を前面に押し出しているところが良いですね。トイレで隠れてタバコを吸う主人公 上村の高校生活をからめて、青春小説の趣があったりして。

綱紀粛正の傾向を強めていく落書き。上村は、真相を見抜くことができるだろうか と続いていきます。伏線やミスリードもあって、ミステリ好きにも楽しめる作品です。

なお、『天帝妖狐』は単行本と文庫では内容が違っているようです。別バージョンということになるでしょうか。著者はおススメしていないようですが、フォロワーとしては、読んでみねばなりますまい。

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