視力を失った女性と、その家に逃げ込んだ殺人事件の容疑者が演じる無言劇です。孤独な二人が同じ空間を共有しながら、心を通わせていく様が感動を呼びます。意外な真実で幕を閉じますが、とても晴れやかな気分になる…
【本の感想】乙一『きみにしか聞こえない―CALLING YOU』
角川スニーカー文庫から出版されている乙一作品は、羽住都のイラストが何といっても魅力的です。『失踪HOLIDAY』、『さみしさの周波数』、そして『きみにしか聞こえない』。『失はれる物語』(角川文庫)といくつか収録作品がかぶっているのですが、ラノベ的白乙一の世界に浸りたいなら角川スニーカー文庫版が良いです。著者のあとがきも楽しいし。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
『きみにしか聞こえない』は、映画化された『Calling You』、『傷-KIZ/KIDS』と、他の作品集には(多分)未収録『華』の三作品が収録されています。
愁いのある美麗なカラーイラストが、作品の胸をうつ読後感にとてもピッタリ。三作品とも、人恋しくなってしまうような一抹の寂しさが漂っています。
■Calling You
いつも一人ぼっちの女子高生リョウは、皆と同じように携帯電話を持ちたいと思っていました。話す相手すらいないリョウでしたが、ある日、頭の中の携帯電話の呼び出し音が鳴ります。相手はシンヤという、リョウと同じ孤独な高校生でした。頭の中で連絡を取り合ううち、親しくなっていくリョウとシンヤ。やがて、リョウとシンヤは実際に会うことを計画するのですが ・・・
頭の中の携帯電話による会話には、時間のずれがあります。これが本作品のミソ。純度100%のプラトニックな恋愛小説です。設定の面白さに油断していたら、あっと驚されてしまいました。やられた!
■傷-KIZ/KIDS
暴力的なことから特殊学級に編入したオレは、同級生のアサトの不思議な力に気付きます。アサトは、他人の傷を、写し取ることができるのです。苦しんでいる人を癒すため、アサトは、痛みを引き受け始めます。そんな、アサトを見たオレは、傷の捨て場所を持ち掛けます。それは、オレが憎しみを抱く、意識不明の親父の身体でした・・・
清らかな心と持つ少年アサトと、荒んだ少年=オレとの、まさに傷だらけの友情物語。あざとくはありながらも、じんわりと心に沁みる作品です。暖かな気持ちに包まれることでしょう。
■華
事故で入院中の私は、病院の裏庭で奇妙な植物を見付けます。花弁の中心に少女の首が入っており、ハミングしているのです。恋人を亡くし傷付いていた私は、その少女の歌声に、徐々に癒されるようになります。ですが、その曲は、1ヶ月前に自殺した女性がよく口ずさんでいたものでした ・・・
絵画的な美しさをイメージできる作品です。単なる怪談話かと思いきや、切な過ぎるどんでん返しが効いています。これまた、やられた!なのですが、イラストとの相乗効果もあって、ちっともオチに気付きませんでした。
「Calling You」が原作の、清原紘 画『きみにしか聞こえない』は、こちら。
「Calling You」が原作の、 2007年公開 成海璃子、小出恵介出演『きみにしか聞こえない』はこちら。
リョウ役の成海璃子、シンヤ役の小出恵介の初々しさが、印象的な作品です。サプライズよりも、二人の心の交流に重きが置かれています。ラストは、やっぱりキュンとなるのです。DREAMS COME TRUE「きみにしか聞こえない」も、劇中で効果的に使われています。
「傷-KIZ/KIDS」が原作の、 清原紘 画『傷』はこちら。
「傷-KIZ/KIDS」が原作の、2008年公開 小池徹平、玉木宏 出演『KIDS~だから僕は生きていく』はこちら。
映画の登場人物たちは、青年に設定が変わっています。小池徹平演じるアサトの恋愛模様や母との確執が描かれており、原作の良さを損なうことなくお話を膨らませてくれています。玉木宏演じるタケオ、栗山千明演じるシホの孤独感も十分に伝わってくる演出です。監督は、『きみにしか聞こえない』と同じ荻島達也。なるほど。
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