【本の感想】乙一『夏と花火と私の死体』

乙一『夏と花火と私の死体』

乙一『 夏と花火と私の死体 』は、著者のデビュー作です。

九歳の夏、「私」は、同級生の弥生ちゃんに殺されてしまいました。二歳上の弥生ちゃんのおにいちゃん 健くんは、おろおろする弥生ちゃんに、「私」の死体を隠そうと持ちかけます。近頃出没する誘拐犯にさらわれたよう偽装すると言うのです。果たして、健くんと弥生ちゃんは、「私」の死体を始末することができるのでしょうか ・・・ 

自分は、子供の死を扱った作品は苦手です。作品がリアルである程、冷静でいられなくなります。しかしながら、本作品は、読んでいてそれほど嫌な思いをしません。死んでしまった「私」である五月が、語り手になっているからか、現実感がとても希薄なのです。

五月は、死んでしまったことを恨むでもなく、嘆くでもありません。淡々と二人の行動を語っていきます。まるで、かくれんぼをしている子が、オニの様子を窺っているようです。健くんの視点でストーリーが進行すると、だだの悲惨な話になったでしょう。気味の悪い夢ぐらいで止めているところに、著者のストーリーテラーとしての力を垣間見ることができます。

ここからは、自分の強引な解釈を述べましょう。

自分は、本作品に荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』の影響を見ています。『ジョジョの奇妙な冒険』の魅力の一つは、ピンチに陥った登場人物たちが、知力を尽くしてこれを乗り越えていく姿です。健くんも同様に、五月の死体が発見されそうになったとき、頭を使った臨機応変な対応でこれを切り抜けていきます。


 排水口に隠した五月に、捜索隊が近づいていくシーン。
 押入れに隠した五月に、叔母さんの緑が手を触れようとするシーン。
 五月を運んでいる二人に、五月の母が近づいていくシーン。

これら緊迫のシーンは、ストップモーションとしてイメージされ、そしてあの名(!)擬音「ゴゴゴゴゴゴ」が聞こえてくるようです。

本作品は1996年にジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞しているのですが、その前年に「ジョジョの奇妙な冒険 Part 4 ダイヤモンドは砕けない」がジャンプの連載を終了しています。この時系列を考えると、両作品の登場人物の相関が見えてきます。

健くんは、「ダイヤモンドは砕けない」のアンチヒーローと重ならないでしょうか。想定外の事態が発生しても冷静沈着な健くんは、イノセントでありながら憎らしい程に狡猾です。死に対する痛みを感じていない様も含めて、まさに殺人鬼 吉良吉影のキャラクターと符合しています。そうすると、五月は吉良吉影に殺された地縛霊 杉本鈴美ということになるでしょう。弥生ちゃんや、犬の66(ロクロク)もモデルを思い浮かべることができます。そしてあの人は ・・・

本作品は、17歳の著者が、大好きな漫画を小説に昇華させたものなのです。

・・・

と、先に色んな書評を拝見したために、捻り過ぎて勝手なことを書いちゃったなぁ ・・・

荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 第4部  ダイヤモンドは砕けない』は、こちら。

荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 第4部  ダイヤモンドは砕けない』
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