【本の感想】乙一『暗黒童話』

乙一『暗黒童話』

乙一『暗黒童話』を読んで、手塚治虫『ブラック・ジャック』「春一番」を思い出しました。角膜の移植を受けた女性が、幻影を見るというお話しです(『瞳の中の訪問者』で実写化されています)。

本作品の主人公 女子高生の菜深は、左目の眼球を移植後、見覚えのない人々や風景を実感するようになります。

「春一番」と設定はかなり似ていますが、本作品は、グロテスクで幻想的な雰囲気とミステリ作品のような展開という、著者の独特の世界観が堪能できます。

菜深が眼球を失うシーンから本編が始まるので、出だしはかなりショッキングです。鴉が盲目の少女のために眼球を運ぶという、一見本編とは無関係な挿話が、一層、不気味な雰囲気を醸し出しています。

快活で学園の人気者だった菜深は、失明のショックで記憶を無くし、人が変わったように内気になってしまいます。あまりの変貌ぶりに、同級生、さらには母親にまで愛想を尽かされる菜深。孤独な菜深は、幻想の中に見る人々に親近感を持ち、眼球の持ち主を探し出そうとするのでした・・・

並行して語られるのは、殺戮しても命を失わせない能力を持つ人物の物語。相手を首だけの存在にしても生かし続けさせれるという、異能の連続殺人者です。

菜深の探索行は、やがて殺人者との接点を持つようになります。

眼球の持ち主が殺されことに気づく菜深。菜深に気づかれたことを察知した殺人者。菜深は、真相に辿り着くことができるでしょうか。

殺人者に生かされ続けている人々のおどろおどろしい奇怪さは、まさに黒乙一。その中で繰り広げられる、クライマックスの緊張感は秀逸です。ミスリードも効いていて、謎解き趣向もバッチリ決まっています。挿話される童話の意味が徐々に分かってくると、著者の話しの運び方は上手いなぁと感嘆してしまいました。

ラストは切なさ満開ではあるのですが、自分としては違った展開が欲しかったな(贅沢か)。

手塚治虫『ブラック・ジャック』「春一番」はこちら。

手塚治虫『ブラック・ジャック』「春一番」

1977年公開 大林宣彦監督、宍戸錠、片平なぎさ 出演 『瞳の中の訪問者』はこちら。宍戸錠がブラック・ジャック役で、少年の頃、衝撃を受けました。しかし、加山雄三(TV版ね)よりは、良かったかな。

1977年公開 大林宣彦監督、宍戸錠、片平なぎさ 出演 『瞳の中の訪問者』
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