【本の感想】中田永一『くちびるに歌を』

中田永一『くちびるに歌を』

中田永一『くちびるに歌を』は、五島列島の中学校を舞台に、合唱に専心するお子たちを描いた青春小説です。

アンジェラ・アキの楽曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」をモチーフにしており、思春期真っ只中の、少年少女の瑞々しさが眩しい作品です。バラバラだった気持ちが、諍いや和解を通して徐々に一つにまとまり・・・という青春小説の王道パターン。お子たちが、中学生にしては良いコ極まりなく、ジュブナイルを通り越してファンタジーのようです。

出産が近づいている松山ハルコ先生の代わりに、臨時教員の柏木ユリ先生が、合唱部の顧問として着任しました。東京からUターンした柏木先生の美貌に、男子生徒は色めきたちます。そして、女子だけだった合唱部に、男子の入部希望者が殺到するようになるのでした。

男子の粗暴さと邪な動機に、仲村ナズナは、否定的な態度を取ります。女子部員に否定派、肯定派が発生し、合唱部は分断の危機。さらに、NHK全国学校音楽コンクール地区大会の開催日が迫っています。そんな中、柏木先生は、男女混声での出場を決めてしまうのでした ・・・

物語は、仲村ナズナと男子部員 桑原サトルの視点が切り替わって、進行します。仲村ナズナは、父が愛人と出奔してしまったことで、男性不信に陥っています。一方、桑原サトルは、周りから距離を置く「ぼっち上級者」。そんな二人が、仲間たちと時にぶつかり合い、時に助け合って成長していく姿が映し出されます。

向井ケイスケに弱みを握られていることで、男子部員の存在を強く否定できなくなる仲村ナズナ。男子部員が、徐々に合唱の楽しさに目覚めていき、女子部員の否定派も彼らを受け入れ始めるのでした。ここは、規定路線ですね。

柏木先生が課題曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」にちなんで、生徒たちに出した宿題は、未来の自分に手書きを書くこと。桑原サトルは、自身が自閉症の兄の面倒を見るために生まれたきたのだ、と告白します。このシーンは、胸が痛くなるのですが、映画の方ではより深く感じ入ってしまいました。

桑原サトルについては、長谷川コトミと一緒に、長谷川コトミの彼氏の家を襲撃するエピソードが愉快です。「ぼっち上級者」も、徐々に周囲に心を寄せていくのです。桑原サトルの告白が重かっただけに、痛快さを感じます。

クライマックスは、地区大会の本番。折しも、分娩室では松島先生が出産の真っ最中。すったもんだの挙句、気持ちをひとつにした五島列島の合唱部の歌声が、響き渡ります。このシーンは、大いに盛り上がります。さて、結果は・・・

自分は、映画を先に見てしまったので、本作品は、感動という意味では物足りなさがありました。感動なら映画、溌剌さなら原作がよろしいかと。原作の柏木先生は、お茶目!です。

本作品が原作の、モリタイシ 絵 漫画『くちびるに歌を』はこちら。

モリタイシ 絵 漫画『くちびるに歌を』

本作品が原作の、2015年 公開 新垣結衣、木村文乃 出演 映画『くちびるに歌を』はこちら。

2015年 公開 新垣結衣、木村文乃 出演 映画『くちびるに歌を』

映画版は、柏木先生役のガッキーが中心で、恋人を亡くしたことをきっかけに、ピアノが弾けなくなったピアニストの設定です(原作は、すぐさまピアノ弾いてしまいます)。

やる気のない先生が、生徒の情熱に感化されて、再生する物語となっています。アキオ(渡辺大知)の、汽笛にまつわるエピソードが良いですね。

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