【本の感想】乙一『暗いところで待ち合わせ』

乙一『暗いところで待ち合わせ』

本間ミチルは、視力を失ってから世間との繋がりを避けるように、ひっそりと暮らしています。唯一ミチルが心を開くのは小学校からの友人カズエだけ。そんなミチルの家へ、殺人事件の容疑者 大石アキヒロが逃げ込んできます。息を殺して居間の片隅に踞るアキヒロ。目の見えないミチルにはアキヒロの存在が分かりません。ミチルとアキヒロの奇妙な生活が始まります ・・・

乙一『暗いところで待ち合わせ』の殆どは、孤独な二人が同じ空間を共有しながら繰り広げる無言劇です。

ミチルと、アキヒロの視点が交互に切り替わってストーリーは展開します。多くのものを失なって、生きることに希望を持てないミチル。無実の罪で追われるアキヒロ。違和感を感じながらも助けを呼ばないミチル。ミチルの所作に不自然さがあることに気づきながら、居座り続けるアキヒロ。緊張感を保ちながら、ミチルとアキヒロの思いが描かれていきます。

あり得ない設定なのですが、読んでいると頭の中にすんなり情景が入ってきます。無音の世界で交差するミチルとアキヒロの心の動きが絶妙なのです。

やがて、ミチルとアキヒロは、お互いの存在を認識し合うようになります。言葉や触れあいのないまま、心を通わせていくミチルとアキヒロ。いつミチルとアキヒロは言葉を交わすのだろうと、ワクワク感が募ります。

アキヒロは疑いを晴らすことができるのか。そしてミチルは ・・・ 

事件は意外な真実が明らかになって幕を閉じますが、これから語り合うべきことが沢山あるミチルとアキヒロを思うと、とても晴やかな気持ちになるでしょう。本作品は、白乙一派には感涙ものの逸品です。

著者によるあとがきを読むと、本作品はもともと『死にぞこないの青』のエピソードだったようです。切り捨ててしまったものを心に残る作品として甦らせる、乙一再生工場おそるべし、ですね。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品が原作の、2006年公開 田中麗奈、チェン・ボーリン 出演 映画『暗いところで待ち合わせ』はこちら。

2006年公開 田中麗奈、チェン・ボーリン 出演 映画『暗いところで待ち合わせ』
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