【本の感想】山白朝子『死者のための音楽』

山白朝子『死者のための音楽』

怪談とは何であるか。

色々と定義はあるようですが、自分にとって怪談とは、日本的な独特の湿り気を帯びた、美しく儚い怪異譚です。いつの間にか心にこっそり忍び込んで、忘れ難いものとなるのです。読んでいたときのゾクゾクするような感覚は、暫くしても、ふとしたきっかけで思い起こされます。

山白朝子『死者のための音楽』は、乙一が別名義で発表した短編集です。乙一の作品は、グロテスクなホラーと切ない系の物語に凡そ分かれますが、本作品は、その双方を併せ持つ怪談話です。

■長い旅のはじまり
寺を訪ねてきた少女は、父を殺され記憶を亡くしていました。お宮と名付けられた少女は、やがて、無垢なまま身ごもり子を産んでしまいます。お宮は、我が子が長じるにしたがって、父の心を宿していることを知るのでした・・・

実の父を自身の子として再生させてしまったお宮。親娘の想いが、美しく結実していく余韻が良いですね。

■井戸を下りる
追っ手から逃れ、古い井戸に身を潜めた青年は、そこで幻のような女性 雪に出会います。雪はその井戸の底にある部屋で暮らしていたのでう。青年は、徐々に雪に心を寄せるようになるのですが・・・

異空間にさ迷い込んだ青年と、そこに住まう女性の因縁話です。結末は、想像を上手く外し、悠久の時を感じさせる締めくくり方となっています。

■黄金工場
不思議な工場の廃液を見つけた ぼく。それは、生き物をも黄金に変えてしまうのでした。ぼくの話しを聞いたと母は、黄金作りに勤しむようになります。母が黄金にしてしまったのは ・・・

初恋の甘酸っぱさを感じるメルヘンタッチの作品かと思いきや、救いのない陰惨な結末へと急転直下。怖気をふるってしまいます。 

■未完の像
仏師のもとに弟子入りを申し入れた少女。少女の彫るものは、言いえぬ親しみを感じさせるものでした。やがて、少女が、人殺しであることがわかり ・・・

どこかで聞いたことがあるような錯覚を覚える作品です。捻りが欲しいですね。

■鬼物語
山に隠れ住んでいた鬼が、村へ降りてきました。次々と村人たちを殺戮する鬼。逃げ惑う少女とその弟は、追い詰められ、そして ・・・

冒頭の会話に込められた切なさが、読了して始めてわかる仕掛けになっています。

■フロッキーズ現象について
私の家に住むついた巨大な鳥。小説家の父が何者かに殺されてから、鳥は、私の心に思うものを持ってくるようになります。鳥に養われるようになった私。しかし、鳥が人を襲うのを見てしまい ・・・

(別名義)乙一のようなミステリタッチの作品です。他の作品は時代背景がぼやけているけれど、本作品は、現在に近いと想像できます。

■死者のための音楽
母と娘の心のうちがそれぞれの立場からつづられます。母が聞いた不思議な音楽とは。母娘の愛情に満ちたやり取りの中に、寂しさと儚さが漂う作品です。死をテーマにしながらも、清々しさすら感じます。

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