【本の感想】筒井康隆『最後の伝令』

筒井康隆『最後の伝令』

筒井康隆『最後の伝令』は、平成2年から平成4年までの14作品を収録した短編集です。

「書きたいものを書いています」的な自由闊達さは相も変わらずなのですが、いくつかのレビューに見られる通り、死が強く意識された作品が多いように思えます。平成元年に著者のお父上や手塚治虫が逝去されており、このことが作品に影響しているのかもしれません。

では、全作品のコメントに挑戦してみましょう。

■人喰人種
人喰人種に捕まり昼飯として連れていかれる男を描いています。人喰人種なるものが全く普通の人々であり、日常に混入する異世界が淡々と語られる可笑しさがります。不条理さが秀逸な作品です。

■北極王
「夏休みの旅行」をテーマにした作文です。北極に招待された少年が書いたという体のホラ話。これが、『SFアドベンチャー』に掲載された作品だと思うと笑えてきます。

■樹木 法廷に立つ
著者独特の言語感覚でつづられる樹木による法廷証言記録です。真面目に読み込んでいくと、どうかなってしまいそうな類の作品。哲学的なキーワードをそれとなく埋め込んでいたりして、読み飛ばすにはちょっと惜しいですね。「メメン党の森さん」というフレーズが気に入っています。

■タマゴアゲハのいる里
作家夫妻の旅の一夜を描いています。これも日常にちょっとした異分子を放り込んでくる類の作品です。しっとりとした情感を漂わせているので、何となく不思議な感覚を覚えます。

■近づいてくる時計
夢に現れる死までのカウントダウン。死についての意識が色濃い作品です。作中に登場する亡くなった親しい漫画家とは、手塚治虫のことでしょうか。

■九死虫
人類が滅亡した後に生息する九死虫の生と死を描いています。生命を九つ持っている虫を通して、どのように生き、どのように死すべきかが問われているようです。この作品もまた死がテーマとなっています。

■公衆排尿協会
尿意を我慢し続けた男が辿り着いた公衆排尿協会とは何か。我慢に我慢を重ねた先には、打ち上げ花火が如くの爽快感が待っています。いや、それ以上ですか。バカバカしすぎて幸せな気分になります。

■あのふたりの様子が変
性的興奮を満足させようと、ひたすら広大な屋敷を徘徊する許嫁の二人。良いところで邪魔が入り続けるじれったさ。寸止めのエロさが良いですね。

■禽獣
ペットのウサギや、インコ、鶯との日々。著者の作品では、あまりお目にかからない、愛情溢れるほのぼのとした作品です。

■最後の伝令
動脈瘤が破裂寸前の男の体内。そこでの情報伝達物質らの活躍を、擬人化して描いています。本短編集のタイトル作だけあって、『ミクロの決死圏』を彷彿とさせる読み応えのある作品です。

■ムロジェクに感謝
恋人の両親に上司を紹介したら、上司の方を気に入って というコント風の作品です。果たしてこのオチは如何なものでしょうか。タイトルの意味も不明のままだし・・・。

■二度死んだ少年の記録
いじめ自殺した少年の空白の数時間を描いています。グロテスクさもさることながら、取り上げたテーマがいただけません。若い頃ならともかく、今現在ではどうにも好きになれない作品です。

■十五歳までの名詞による自叙伝
ひたすら、名詞(主として固有名詞)がつづられていくだけの作品です。これでも、著者のバックボーンが見えてくるような気持ちになるから不思議。好き放題やってくれています。こういうのが許されるのが、筒井康隆なのでしょう。

■瀕死の舞台
死に場所に舞台を選んだ老齢の俳優の生き様を描いています。役者魂を戯画化した、軽いタッチの作品です。著者のシニカルさが垣間見えるようです。

ふぅ。コメント書ききって、ちょっと、疲れた ・・・

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