著者ならではの実験的な作品を読むことができますが、毒性は極めて少ない短編集です。ニヤニヤ笑いが止まらない歴史小説のパロディー「時代小説」、映画化もされたとってもハッピーな「ジャズ大名」、他が収録されて…
【本の感想】筒井康隆『エンガッツィオ司令官』
筒井康隆『エンガッツィオ司令官』は、三年三ヶ月におよぶ断筆を解除した直後の作品集です。
著者の若い頃の猛毒性のある短編はさすがに見られないのですが、ニヤリとさせられる危うい感じは健在です。
なんと言っても、何故断筆に至ったかが著者の言葉で語られる『附・断筆解除宣言』が、興味深いですね。てっきり世の中の批判に嫌気が差したのかと思いきや、どうも違うらしいのです。著者らしい反骨精神に表れだったのだなと納得した次第。
それでは、気に入った3編をご紹介です。
■エンガッツィオ司令官
婚約者へのプレゼントを購入するため、新薬の被験者のアルバイトを始めたおれ。いつしか歯止めが効かなくなって・・・
こ手のブッ壊れていく人を描かせたら、著者は天下一品です。破壊的な無茶苦茶さに、ちょいと気分が悪くなりつつも、笑いがこみ上げてきます。エンガッツィオは、えんがちょのこと?
■乖離
スカウト業のおれが目を止めた「凄え美人」。彼女が一旦口を開くと、見た目の美麗さとはかけ離れた、下品極まりない事を延々と喋りまくるのです。
女性が発する、汚い言葉の連射にやられてしまいました。実際に存在したら虜になっていたでしょう。
■猫が来るものか
ひと時代前の作家 篠崎と対談することになったおれ。テーマは「作家と薬物」。篠崎は、自身の薬物体験を語り始めて ・・・
一言でいって危ない話し。いいのかねぇ。
その他、本書には、著者ならではのエロチックでヒネくれたファンタジー『魔境山水』、いたたまれない寂しさが漂う『夢』、勧進帳のパロディ『俄・納涼御攝勧進帳』、独裁国家とマスコミを揶揄したような『首長ティンブクの尊厳』が収録されています。
本書の七福神シリーズ(?)『越天楽』、『東天紅』、『ご存知七福神』は、残念ながら面白さがちっと分かりませんでいた。自分には合わない作品はこれまでにもあったから、断筆云々とは無関係ではありますね。
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