筒井康隆全集の月報として2年間に渡り書かれたエッセイです。テーマは、文学論、世評、創作ノート、ファンレターから、妄想まで。思いつくまま、気の向くまま話題が発散気味に展開します。目一杯、猛毒を撒き散らし…
【本の感想】筒井康隆『くたばれPTA』
学生の頃、よく読んでいた筒井康隆作品。『くたばれPTA』(1986年)は、オリジナル短編集ではなかったので、いくつか記憶に残っている作品があります。ひょっとしたら、本短編集がそもそも気づかず再読してしまったのかもしれない(情けないことにぃ)。
作品は、『欠陥大百科』、『発作的作品群』、『ベトナム観光公社』、『暗黒世界のオデッセイ』、『筒井康隆全集』からの再録とのことです。
全24編のショート・ショート集ですが、「モケケ=パラリパラ戦記」のように比較的長めの短編も収録されています。
実験的な作品が殆どないので、筒井康隆作品の中では、比較的読み易いのではないでしょうか(例外は、「ナポレオン対チャイコフスキー世紀の決戦」ぐらい)。その分、著者の毒に免疫を持っている読者は、物足りなさを感じてしまうかもしれません。
ショート・ショートの全作品のあらすじを紹介する愚は避けるとして、気に入った作品をピックアップしてみます。
■歓待
V13番星から帰ってきたW大佐は、ぼくとYにその星の歓待ぶりを教えてくました。ぼくとYは喜び勇んでV13番星に向かいます。しかし、ぼくとYは、そこでW大佐の言と全く異なる歓待を受けることになるのでした ・・・
■2001年公害の旅
硫酸の雨が降りそそく都心を離れ、妻と田舎へ越してきたおれ。エリート校に通う息子を残したままです。しかし、数年たつと田舎にも公害が押し寄せてきました。おれは、東京都全体をドームで覆い公害から守る計画を知り、都心に戻ることにしたのですが ・・・
昨今のコロナ疎開とだぶってしまうのは自分だけでしょうか・・・
■かゆみの限界
ノミの研究をしているおれの所へ友人がやってきました。友人はノミを分けてくれと言います。気がつくと友人の頭には、無数のシラミがたかっています。人間がどこまで痒みに耐えられるのかを知ろとしているらしい ・・・・
■猛烈社員無頼控
平垣海苔助は、猛烈社員。純朴な頭脳と頑丈な肉体の持ち主の海苔助は、猛烈社員ブームに乗り、全身これ猛烈の塊と化したのです。海苔助の猛烈ぶりは、止まることを知らず、女子社員が失禁するほどに激しさを増していき ・・・
■くたばれPTA
SFマンガ家のおれは、婦人団体から寄せられる抗議に辟易していました。いくら理を解いても話が通じません。抗議活動は除々にエキサイトしていきます。拡大した悪書追放運動のため、おれはすっかり極悪非道の悪人の役を振られてしまい ・・・
■20000トンの精液
ヒルダの痴態が全世界に放送されると、実体をともなったヒルダが、全世界のヒルダ・ファンの前に現れます。ヒルダが主演のテレビ番組は、常にトップの視聴率を誇っていました。独身者も妻帯者も、この時間を待ち焦がれます。しかし、ヒルダは、男性からは執拗な欲望の対象として、女性からは憎悪の対象として見られていることに気づいていたのです ・・・
昨今のVRのちょっと先を暗示した作品です。
■モケケ=パラリパラ戦記
地球の植民星モケケとパラリパラは、モケケの侵略行為により、戦闘状態に陥っていました。行商人のタン・ナガトは、妻メイ、息子ルスケの待つ故郷へ急ぎます。しかし、タンは戦闘に巻き込まれ、家族へ会えぬまま、軍隊に配属されてしまうのでした ・・・
解説によると、本作品は濃縮小説という形式らしいですね。アルフレッド・テニスンの『イノック・アーデン』を彷彿する、叙情的な物語です。これは、必読の傑作せす!
余談。
初音ミク「くたばれPTA」という曲があります。本作品の内容とは無関係ですね。
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